せせらぎ すい

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昔から、私はひとり遊びをよくしていた。

引っ込み思案で人と会話するのが恐かった。

それと ―――――



「さや〜、おまたせぇ!
ごめんね、待たせちゃって。」
「大丈夫だよ。帰ろっか。」
放課後の帰りを待ち合わせていた友人のアヤカは、いつも元気で、みんなからもよく頼られるムードメーカー的な存在。
幼稚園よりも前から中学に上がった今まで、ずっと一緒にいる私の幼なじみだ。

「でさ〜、、」
「…」
「…さや?大丈夫?」
「え、、あ、大丈夫!ごめん!なんだっけ?」
「…あのさ、さっきトモコ達が色々言ってたけど、気にしちゃだめだからね。」

色々 というのは。
今日最後の体育の授業、後片付けを行ってた時だった。私とアヤカが用具準備室へとボールを運んでいると、中から何やらヒソヒソと話し声が聞こえてきた。
その内容に思わず、足を止めて息も潜めてしまう。

「さやがさ、たまに誰もいないところで何か言ってるんだよね、」
「あの子小学生の頃からそんな感じだよ」
「私には幽霊が見えるの〜的な?不思議ちゃんキャラかよw」
「かまって欲しいんじゃない??」
「なにそれw」
「まぁ、正直ちょっとね、、」
「気味が悪いって言うか」
「…変わってる子だよねー。。」

またか。

というのが正直な感想。
元々周りの人と自分の雰囲気や感じ方がズレてるのはもう理解している。
小学生の頃はそのズレを理解出来ずに苦労したし苦しんだ。
いや、今でも苦しい。
それでも最近はこれでも 普通 に慣れて来ているのに。
久しぶりに自分への陰口にちょっと傷ついた。

(ボール片付けられないな…アヤカは、、)
自分も気まずいがこの状況にアヤカの反応が気になった。

ガラガラッ
「「!!」」
「あれー?トモコ達ここにいたの。あたしらのボールで片付け最後だよー!先生が最後の号令の為に集まれってさ。先に行ってて」
「あ…あぁ!おっけー!アヤカありがと!」
「はいよー」
アヤカが笑顔で返事をすると、中で話していた女子たちはバタバタと用具準備室から走っていった。
何食わぬ顔で、何も知りませんよ、聞いてませんよ風で、私もすれ違う。
すれ違った後、後ろからはこちらの様子をちらりと確認して(今の聞こえてた?)(やば〜)と会話がうっすらと聞こえる。

アヤカはこういう立ち回りが上手いと思う。
それで何度も私は助けられてる。
「ボールってどの棚だっけ?」
「、奥の2段目。」
「そうだった!ありがとう!」
何事も無かったようにアヤカはボールを片付けていく。
こうゆう時、普段と変わらず対応してくれる人。対応できる人ってかなり少ないんじゃないだろうか。

何も変わらない。
それが私にとって、どんなにありがたいことか。

「アヤカ、」
「ん?」
「…ありがとう。」
「…ん」


帰り道、アヤカの話を聞きながら私はさっきトモコ達が話していた内容を頭で改めて噛み砕いていた。こういうことは以外と時間が経ってから心にズシリとくるものだ。

気にしちゃだめだからね というアヤカの言葉に うん と返す。
「さやはさ、まだ周りからの声とか影とか、昔言ってたような別の何かは見えてるの?」
「…うん。最近減ってきた方なんだけどね、私的には。」
「そっか。最近そういうこと言わなくなってたから、もしかしたらもう見えたりしないかなーと思ってた。」
「んー、正直…慣れだよね。これは。」
「慣れ、、なのかな…?」

アヤカは私の言葉に疑問符をうかべる。

「今でもあれらのことはよく分からないけどさ、昔みたいに訳の分からない恐怖はだいぶ減ったよ。''そうゆうものなんだ''って、無理やりでも納得すると、見えても「またいるなー」とか、聞こえても「何か言ってるなー」って。ちゃんと内容を聞かなくなったしね。」
「だいぶ図太くなったねぇ、さや。」
アヤカはくすくすと笑う。

「…あたしは、話を聞いてあげることしか出来ないからさ。聞いて、さやの思ったこととか感じたこととか。想像しか出来ないから。苦しい時とか辛い時とかは直ぐに言ってね。」
「うん。いつもありがとうアヤカ」
へへへっとアヤカは笑う。


ありがとう。アヤカ。
でもこれはしょうがない事だから。

見えちゃうのは。

聞こえちゃうのは。

それを感じてしまうのは。

もう割り切るしかないんだよ。


話を聞いてくれる友達がいる。
理解してくれてる人か身近にいる。
それだけで、私はとても恵まれている。

親も信じてくれなかったこと。
子供の作り話だと真剣に聞いてくれない大人に囲まれて一番辛かった時に、話を真剣に聞いてくれたアヤカ。
今だって、クラスの子から色々と言われているのにいつもと変わらずそばにいてくれる。

この先もこれのせいで辛いことがあるのかもしれない。
それでも。

「…ね、さや。」
「なに?」
「何が見えようが、感じようが、さやはさやだからね。」
「!」

なんで欲しい言葉が、
この幼馴染にはわかるんだろう。

「…うん!」

人と変わっていようがなんだろうが私はわたし。
私はわたしを否定したくないし、自分自身を受け入れたい。

最後に私たちは笑いあった。



side A

あたしの幼馴染は、昔から 何か を感じるらしい。
それは時に影であったり、話し声だったり。
とにかくそれはあたしにはない感覚だった。

初めて話をしてくれた時、さやは泣いていた。
そりゃそうでしょ。誰だって怖いよそんなの。
さやはすごいよ。あたしじゃきっと耐えられない。

でも昔、さやと少し会話でぶつかったことがある。
いつものようにさやは耳を塞いで、この時も 声が聞こえる と辛そうだった。
声はさやに何かを囁いていたらしい。
さやはそれを聞いて泣いていた。

その時の私はやはりまだ子供で、ズカズカとさやに何を聞かれたのかとか興味本位で聞きまくった。
さやの気持ちも考えないで。

「なんで分からないの!?なんできこえないの?!
なんで、、なんで、私だけなのぉ…」

悲痛な叫び

あの時のさやの苦しい辛い恐い全てが詰まった表情を私は忘れられない。

さやは昔から周りの子達に優しかった。
そんな優しさに 何か も近づきたくなるのだろうか。

あたしは、人一倍優しい大切な友達をもうこれ以上傷つけたくない。


周りの友達や大人たちは私は頼れると、誰にでも優しく人への気遣いができる人だと言う。
でもそれを全て教えてくれたのは間違いなくさやだった。



「さや、私の方こそありがとう。」
普段は照れくさいけれど、今伝えたいと思った。

「???え、何が??」
なんのことか分からない。という顔だ。

「っはは!さや変な顔〜」
「ちょっ、今のはアヤカがおかしくない?!」



いつも通りの帰り道。私たちはいつもと変わらずわらいあっていた。







『声が聞こえる』

――でもあなたがいるならその声も、
もう気にならない

9/22/2024, 4:26:37 PM