7月の天気雨の日、傘を持っていたにも関わらず、ささずに雨に濡れて帰った。
家に帰って、鞄も髪も制服も全部濡らした私を見て、母は目を見開いた。
「あんた、折りたたみ傘持ってなかったの?」
梅雨も終わりが近づいたとは言え、まだ急に雨が降ることもあるからと、私が折りたたみ傘を携帯するようにしているのを、母は知っている。当然の疑問だった。
「持ってたよ。でも、天気雨、綺麗だったから。濡れて帰りたくなって」
「あんたねえ、そんな意味のないことして。風邪引いたらどうするの」
私のセリフに、母は呆れ顔だ。
「とりあえず体拭いて、玄関上がって、さっさとお風呂入っちゃいなさい」
母は、タオルを差し出しながら、私を風呂場へ追い立てようとしてくる。
確かに傘もささずに雨の中駆け出したのは、傍から見たら意味がないことだったかもしれない。
でも、キラキラの天気雨の中を走るのは、最高に気持ち良かったのだ。結果的に、私にとっては意味があることになったのだと思う。
客観的に見たら意味がなくても、主観的に見たら意味がある。
もしかして、世の中に真に意味がないことなんて存在しないんじゃなかろうか。
そんなふうに哲学っぽく考えながら、私は、母からタオルを受け取って、身体に付いた雫を拭い、風呂場へと向かった。
11/9/2024, 8:39:32 AM