猛烈な羨望に胃の辺りが熱くなった
もう二度と見ることの無い名前と文章に別れを告げ、連絡先ブロックし、窓の外を眺める
私がたった今切った縁を遠くへと運んでくれるように、
軽やかに窓から流れこむ風をひとつ吸い込み、
澄んだ空気の中、目を閉じた
今までやり取りをしていた相手は
思想や言葉の端々に認知の歪みが滲み出ているような人であった、
もちろん面白いところもあったから付き合っていたのだが
つい先日、私がフラリ、と呟いた一言が
よほど気に食わなかったようで
食ってかかられた
私より一回りも年上なのに、
強い言葉を使い、揚げ足を取り
責めたてる様は正直哀れであったが
同時に
この人の無垢さに感嘆を覚え、
そしてこの世の中に絶望していた
今まで生きてきて
こういう人間には嫌という程出会ってきた、
こういう人を作り出してしまう
世の中の不公平さをひしひし感じる一方で、
いつもこの人たちの無垢さに驚いてしまう
みんなある意味で何より清らかだと思う
自分を疑わず
ひたらすらに我を通す、
そこになんの混じり気もない
それらに対する諦念の底にある
喉から手が出るほどの羨望の思いに私は唇を噛み締めていた
じわりと鉄の味が滲む
思ったより強い感情を抱いていたことに
自分自身で気がつき、驚く
無垢な人々はきっとこういう時、
唇を噛み締めるのでなく、
必死に
唇を動かしペラペラと主張するのだろう
そういう人間になりたかった
私は自分で自分を偽り、
人に対しても自分を偽り
私自身が今どこにいるのかも分からないのだ
窓の外の青いもみじが
行くあてもなく
ハラハラと散っては川の向こう側へと
流れていく様子を
私は血の味と共に延々と眺めていた
6/1/2024, 9:51:06 AM