昔話風ファンタジー。300字小説。
登竜門
いつまでも降り止まない、雨。勢いを増した水が堤を破ろうと、どうどうと流れる。
「良いわね、鯉太郎は。村が水に浸かっても大丈夫だものね」
大人達が大事な物を二階に上げるなか、私は縁側から池の鯉に向かって声を投げた。
「村も田んぼも畑もどうなるのだろう……」
空を見上げたとき、パシャリ! 黒い尾鰭が水面を打つ。鯉太郎は大きく飛び跳ねると、そのまま滝のような雨を空に向かって昇っていった。
「その後、雨が止んだのよ」
以来、この村をあんな大雨が襲ったことは無い。
「鯉太郎が止めてくれたの?」
孫達の声に空を見上げる。
梅雨の終わり。厚い雲が割れ、日差しが差し込む。
割れ目の向こうの青い空を、黒い龍がゆうゆうと泳いでいった。
お題「いつまでも降り止まない、雨」
5/25/2023, 12:03:46 PM