cloudy
曇色の飴玉を貰った。
目の前に事故に合いそうなおばあちゃんがいれば、見て見ぬふりはできない。詳細は省くが、何とかおばあちゃんを助けると、お礼にと1粒手渡された。
一般に売られているような飴と同じように包装されているが、自分は見た事のない種類の飴。
見た目からは味が想像できないが、折角の好意なのでいただいておいた。
おばあちゃんに手を振ってから飴を開けてみる。どんな味か分からないが好きな味だと嬉しい、と思いながら口の中に放り投げた。
――甘い。それもかなり。
シチュエーションも含めて言うと、ショートケーキの上に鎮座している苺のような甘さだ。もしくは、特大パフェの終わりがけの甘ったるさ。
食べ覚えのない味。ただただ甘くて、それが癖になる。1粒しかないのを残念に思うくらいには。
……ふと、そういえばと思い出す。おばあちゃんを助けた時に独りごちていた言葉。前半だけ聞いて後半は流していたけれど。
『助けてくれてありがとうねえ、お兄さん。でもまさか、事故に会いそうになるなんて……やっぱり、不幸を除いておいてよかったわあ』
――人の不幸は蜜の味。突如思いついた言葉に、思わずゾッとする。まさかそんな、なんて。
違うに決まっているけど、もしも、もしも貰ったのが、人の不幸を煮詰めた飴玉だったら。それを食べた俺は……。
そんな有り得ないに決まっている想像はきっと、近付いてきている。曇りきった空の下、立ち尽くす俺の近くで車の走行音が聞こえた。
9/22/2025, 10:56:44 AM