創作「終わりなき旅」
おや?彼がいませんね。どこへ隠れているのでしょうか。あ、いました。部屋の真ん中でぴくりともしませんよ。ああ、そうですね。これは残念です。仕方ありません。次の彼に託しましょう。
「うっ……夢、だったのか。ん?」
私の腹の上に、原稿用紙を紐で閉じただけの簡素な本が一冊乗っていた。中は私の字で書かれている何かの物語だ。だが、後半は全て自己を省みる言葉が続き、後は何も書かれていなかった。
「こんなもの、書いた覚えはないぞ」
それは当然です。なぜなら、前のあなたが書いたものですから。そして、あなたにはこの文章を完成させてもらうつもりです。
「そうか。完成してどうする?」
あなた自身を完成させるのです。
「うん。それで、お前は誰だ」
あなたを見守るものです。
「そうか。ならもうこれ以上、私を狂わせるな。私は私だ。私の意思で行動する」
以前のあなたも、同じことを言って消えました。
「それは前の私だろう。私は今の私だ。前の私とは異なる」
本当にそうでしょうか?
「なんと言われようと、私はこれを書かない。いくら書いても完成なんて訪れないから。これはもう処分する」
彼は断ることを覚えたようです。
ですが、旅は終わりません。
また、どこかで会いましょう。さようなら。
5/30/2024, 1:00:02 PM