俺は、自分の人生を、つまらないものだと思っていた。
『幸せな人生って、なんなんだろうな?』
「幸せな人生?」
『そう。幸せな人生。
お前頭いいからさ、わかるかなと思って』
「うーん…平穏な日々を送れることじゃない?」
『平穏な日々?』
「いつも通りのことができること、とか?」
『…?それって幸せって言うのか?
つまらないし、くだらない、ただの日常なのに?』
「そうだよね。つまらないのに、くだらないのに不思議な程に幸せだって思えてしまうんだ。
だって、いつ、どこでなにがあるかも分からないんだよ?もしかしたら、命さえ奪われるのかもしれない。
そう思えば、つまらない、くだらないことができることって、すごく幸せで、素敵なことだと思わない?」
『なるほどな…
じゃあ、今この話をしているのも、「つまらない、くだらないこと」なのかもな』
「ふふ、そうかもね」
大人になった今でも思い出す。
本当に、俺は幸せ者なのだと。
あの話をしてから俺は、いつも通り、普段の日常をあい変わらず送っていた。
変わったとすれば、そんな日常を今でも幸せだと思えるようになったこと、か。
…あいつも、平穏な日常を送れてるのかな?
最近は忙しくて、全く会えていなかった。
そんな時、スマホが鳴った。
慌てて鞄からスマホを取り出し、着信のあったラインを開いた。
お前の方が、忙しいくせに。
貴重な時間を俺に使うなんて。
でも、お前ならこんなことに時間を使うのにも、幸せだと、平穏だと言いそうだな。
…今日はいつもより仕事を早く終わらせよう。
「久しぶり、今日時間ある?
もしあれば、またあの頃と同じ、つまらない、くだらない話をしよう。」
あのつまらない、くだらない平穏な日常の話を。
3/11/2023, 10:55:36 AM