僕と一緒に
「僕と一緒に、思い出を作ってくれない?」
高校生だったあの頃、あまり話をしたこともない、文字通りのクラスメイトの男子にそう声をかけられた。大人になった今では苗字すらも思い出せないが、下の名前が少し古風なのを本人は嫌い、みんなに「ユウくん」と呼ばせていた。
「えっと……ユウくん?」
だから確かこの時、僕もユウくんと呼んだ気がする。
「思い出って、何? 来月の文化祭のこと?」
「そやねぇ。文化祭。いっしょ回らへん?」
ああ、そうだ。ユウくんは大阪から来た子だった。
いや、子というのはおかしい。一年浪人してたから、俺らより一歳年上なのだ。偏差値の高い高校でもないのに。変わった人、というのが第一印象だった。だから余計にみんなは馴れ馴れしく「ユウくん」と呼ぶのに抵抗感を覚えていた。俺もそのひとりだ。
「もちろん良いよ。木村たちとも約束してるんだけど。五人でもいい?」
「……いいよ」
数秒間を空け、ユウくんは頷いた。笑顔のつもりだろうが、下手だった。
結局ユウくんはインフルエンザにかかり、文化祭には来られなかった。高校三年生だったから、最後の文化祭だったのに。
「残念だな、ユウくん」
「そうだねぇ」
文化祭を一緒に回ると決めてから、ユウくんは俺らとよく話すようになった。芸人さんのような破天荒な明るさも、ドラマのようなトゲのある話し方もしない。ぼうっとしてることも多く、話せば俺らよりも言動は幼い。なんだか不思議な空気の人だった。
そんなユウくんのことを、きっと俺は好きになっていた。
「文化祭、残念だったね」
二学期の最後まで、俺はそう思っていたし、ユウくんにもそう言った。
「インフルはほんま運が悪かったわ。どこでもらってもうたんやろ」
「俺ら誰も熱出さなかったし。家の人とか?」
「……かもしれんなあ」
ユウくんに家族がいないと知るのは、数年後の同窓会でのことだった。無神経に残酷なことを言ってしまったんだ。
「文化祭はもう無いけど、放課後木村たちとゲーセンに行かない? 今日が都合悪ければ、日を改めてでも」
「ゲーセン行くのに前もって予定立てるやつおらんやろ」
ユウくんがケラケラ笑う。その顔を見て、安心した。
前に言っていた「思い出を作る」が文化祭以外でも代替可能か分からないまま、俺らは放課後、駅前のゲーセンに行った。クレーンゲームで失敗したのを煽り合い、カーゲームで対戦し、コインゲームで長いこと遊んだ。男子禁制ではなかったプリクラを野郎共と撮った。加工が付くと、元々線が細く色白のユウくんは尚更女の子みたいになった。
「ありがと。楽しかった」
切り分けたプリクラをじっと眺めるユウくんを見て、ほっとした。
「また来ようよ。みんなで」
「良いな! オレ、ユウくんの悲鳴聞いたの面白かった」
「甲羅ぶつけた時?」
「そうそう! すっごい高い声で!」
「あれはみんな爆笑してたもんね」
「ズルいって! せっかく一位でゴール出来る思うたのに……優しくない人らやで、ほんまに!」
ユウくんがぷりぷり怒ってみせる。その様子で、俺らはまた笑った。
それから卒業まで数回、ユウくんとは遊びに行った。木村や前田など誰かもいつも一緒だった。
「ほんまは僕、内田くんと二人だけで遊びに行きたかったんよ」
胸に青色のコサージュを刺したユウくんが、賑やかな教室の中で、俺だけに聞こえるようにぽつりと言った。
「え?」
「いや……なんでもない。忘れてや」
「……俺、ユウくんが作り笑い下手なの、気付いてるからね」
そう言うと困ったように笑っていた。
俺は進学し、ユウくんは就職した。卒業後も連絡は取り合っていたが会うことはなく、同窓会を楽しみにしていたのに。
その後、ユウくんと会うことは二度となかった。
9/23/2025, 11:27:22 PM