しきのみや

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 運命の赤い糸、とよく言う。なぜ赤なのだろうか。青や黄では駄目なのか? 赤という色には確かに情熱的、恋愛的な印象を広く持たれているけれども、しかし赤い糸というのはまるで血に塗れた呪具のような不吉な感じがどうしても拭えない。そもそも、人と人とを結びつける運命の糸というものは目に見えないはずである。運命が目に見えるものであれば私たちはこんなにも苦労して生きていない。ゆえに、不可視であって然るべき運命の糸というものを、赤色と形容するのはあまりに矛盾しているように思う。色とは可視光であり、運命とは不可視光だ。まだ赤外線の糸とでも言う方が理にかなっているのではなかろうか。いや、そもそも運命に色などなく、実体と呼べるものさえ存在しえないのではないか──。
「君は浪漫に欠けるねえ。そんなんだから運命の人と巡り会えないんだよ」
 そう言うと、目の前の想い人は可笑しそうに頬を緩めた。もし運命が存在するとすれば、それは着色された糸なんかではなく、あらゆる闇を照らす恒星だと私は思った。

6/30/2024, 1:57:04 PM