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消えた星図




 なくなってしまうことは字面の上ではかなりロマンチックなような気がする。しかし、現実ではただの状態に過ぎないのだ。そんな話をしよう。
 星図……いや、そんな少し気取った言い方はやめよう。星座早見盤のことを覚えているだろうか。小学校のときに理科で使ったあれである。日付や時間が書いてあって、その時の空の星の配置が分かるのだ。1等星、2等星、3等星と明るさも書いてあった。意味もなく1等星の星に丸をつけたのを、今でも覚えている。しかし、その当時の理科において一番の話題は夏の大三角のことであろう。ベガ、デネブアルタイルの3つの星のことである。その夏の大三角とやらが、秋頃に空のてっぺんに来るのだと先生が言っていたことを思い出して、ベランダに出て空を見上げた。町中と言えども、十分にいくつかの星が見えた。そこまでは良かったのだ。しかし、どれが大三角なのか全く分からない。それらしいものを見つけても、三角形なんて簡単に描けるものなので確証がない。そこで、まだ星座早見盤が残ってやしないかと思って勉強机を漁ってみたがなく、本棚や作品バッグの中や、おもちゃ箱の中にも勿論なかった。 
 そうなればその際、スマホで調べてしまえばよかったのだ。早見盤よりも便利なアプリなどいくらでもあるだろう。しかし、私はそれをしなかった。結局、目をつけた3つの星が夏のものだったのかは分からずじまいだった。もはやそれがどの星だったかも、分からない。あの日の空をもう一度見たとて、私は同じ星を選ぶだろうか。
 息子の星座早見盤を手に取り、空を見上げる。夏の大三角は未だ真上にいない。

 関係ないことだが、私の星座早見盤は最近になって見つかった。物置にまでいっていたらしい。

10/16/2025, 1:34:41 PM