藍星

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いつもそばにいてくれる彼。
優しくて、あたたかくて、強くて、懐の深い
意地悪で・・少し寂しがりの、甘えたがり。

だけど、彼にだって不調や不機嫌や、一人になりたい時だってある。

私だってそうなのだから。

たまに言い合いというか、感情がついつい暴れてしまってぶつかってしまうこともある。
たとえ傷つけるつもりはなくても。

でも、何に対しての感情なのかわかっている時はまだ良い。
何に対してなのか、はたまたどうしてそう感じるのかわからない時は、彼に説明のしようがない。

ただ、腹が立つ・悲しい・苦しい・・・
と、そんな単語しか出てこない。
挙げ句、顔も見たくないから一人にして。
と言って彼を突き放し、離れてしまう。


はぁ・・・と、一人ため息をつく。

まだまだ寒い季節。だが、その寒さが少し心を落ち着かせてくれた。
なんで出てきてしまったんだっけ・・
と、省みるも自分の行動が不可解に思えてしまった。

どうやら、今回は何に対しての感情なのかわからない上に、
それを表現する単語すらわからない状態のようだ。


彼は基本的に、私の話をちゃんと聞いてくれる。受け止めてくれる。
だけど、最近疲れているのか、イライラしているのか表情や雰囲気が険しい。


私のせいかな・・とか、何かしてしまったかな・・と、考え始めてしまえば、
思い出してしまうことはそれなりにある。
だけど、それを考えることさえも今は億劫な気分だった。

なんとなく、心が麻痺している感じだった。

だからとりあえず、突き放されたわけではないけど・・彼と離れようって思って、無意識に出てきてしまったんだろう。


財布はなく、家の鍵とスマホ以外、大した持ち物も、遠出できるような装いでもない。
またまたとりあえず、近くを散歩しようと歩き出した。

何も考えたくなくて、考えられなくて、
ただぼんやり辺りの景色を見ながら歩いていた。


よう。お前さんか、また散歩か?

と、あたたかな親しみのある声がかけられ、私は声の主を見た。
あ、マツ。うん。気が向いたんだ。
と、答えると、
マツの優しい笑顔が返ってきた。

いい天気だからな。
ところで、今日はあいつはいないのか?

あいつとは、彼のこと。
マツは、私が幼い頃からの友人。
そして、彼とも長い付き合いのある友人。
私の親よりも年上だが、よく話をしたり幼い私のことも相手をしてくれた。
今でも大切な友人だ。


あいつ––彼はいないのか?という問いに、
私は言葉に詰まってしまった。
今日は一人だよ。
と、すんなり答えればいいものを、と思うのに・・私の口はすぐに動かなかった。

そしてマツは、その私の様子に目ざとく気づいた。

ケンカでもしたか?あー・・違うな。

と、すぐに訂正したことを私は疑問に思い、尋ねる。

昔からお前さんは、身近な人の感情や様子に鋭く気づく。んで、だいたいその原因が自分にあると思い込んで、離れるだろう。
きっとあいつが、近ごろ不機嫌なのはお前さんのせいだと、勝手に思い込んで、家にいたくなくて、出てきた。
・・そんなところだろうな。違うか?

観念して、だいたい合ってる。と答えると、
マツから意外な言葉が返ってきた。

あいつのことを想うなら、
今すぐ帰ってやれ。それがあいつのためだ。

ポカンとしている私の頭を、
マツは撫でてきた。

あいつ、今頃寂しがってるぞ。
飲みに行くたびに、お前さんが時々フラっといなくなる時があって、ちゃんと帰ってくるかと不安でたまらないってボヤかれるんだ。
あいつは、いつでもちゃんとお前さんの帰りを待ってる。
何かあるなら、自分だけで何とかしようとするんじゃなくて、ちゃんとあいつも巻き込んでやれ。

でも、何がわからないのかもわからないんだ。と、自信無さげに言うと

わからないなら、わからないことも、あいつと共有したらいい。

迷惑じゃない?私は彼の足でまといになりたくないよ。と、言い終わる前に、
マツはまた、私の頭をポンっと叩いた。

いいか。
迷惑かけないことが、不機嫌なあいつのそばを離れることだけが、あいつのためになるわけじゃない。
愛ってのはな、いろいろ形があるんだよ。
少なくとも、今のお前さんに必要なのは、このまま散歩を続けて、一人悶々と考えることじゃない。

何より、またオレがあいつにボヤかれるから。と、マツは付け加える。

マツは私に、強制的に回れ右をさせて、背中を押した。

ちゃんと思っていること、
あいつに言ってやれ。
言いたいことがわからないんじゃなくて、
きっと、言わない方がいいって思っているなかに、本当に言いたいことがあるんだ。
お前さんは優しいから、
本当に言いたいことを、あいつに言わない方がいいって思うと、本当に言えなくなるんだろうな。
ほら、帰れ。あいつに連絡しといたから、きっと迎えにくるぞ。


マツの言葉に、つい帰る足が止まりそうになったものの引き返すことは許されなかった。

でも、一歩踏み出してしまえば
自然と足早になっている自分に気づく。
私は・・やっぱり・・
             Love You

彼と・・愛しい彼と一緒にいたいんだ。












2/23/2024, 11:57:04 PM