かたいなか

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私、永遠の後輩こと後輩に、実在の推しができた。
元々ゲームキャラとして推してたけど、
その「ゲームキャラ」だと思ってた推しが、
性格には推しカプの左側が、
モチーフとかフェイスモデルとか声優とか、そういう意味じゃなくガチの意味で、
まさかの、実在する人物だと判明。

私はいつの間にかリアルとフィクションが入り交じる世界線に辿り着いちゃったらしい。
ワケが分からない(しゃーない)

で、
推しと出会い
推しと語り合い
推しがコーヒーを奢ってくれて、
家に帰って寝て起きて、ようやく、
実在の推しと会ったって事実に頭が追いついた。

推しが居た。
推しが、十数時間前から数時間前にかけて、
私の部屋に居て、私と話して、不思議な喫茶店に一緒に行ってそこでコーヒーを奢ってくれた。

やっと頭が追いついた私は、
ひとまず、 部屋を片付けて美容室を調べて、
フェイスケアとネイルケアの、情報を漁った。
「身だしなみ気をつけなきゃ!!」

「高葉井ちゃん、随分熱心だね」
昼休憩中の職場、図書館の事務室で、すぐ対応してもらえてウデの良い美容室とサロンを探してたら、
私を今の職場に引っこ抜いた、「付烏月」って書いて「ツウキ」って読む付烏月さんが来た。
「デートとか?久しぶりに親友に会うとか?」

はい、最近研究中のベリージャム入りプチケーキ。
付烏月さんは私の机に、付烏月さん特製の小さなキューブケーキを置くと、
自分の席に座って、予約が入ってる貸し出し書籍のメッセージを打ち始めた。

「あのね。推しが、いたの」
「そっかー」
「推しが実在したの」
「そっかー」
「推しが実在したから、私、今のまんまの身だしなみじゃ、推しに会えない!」
「そっッ……、 ……うん?」

「推しにつり合うように、推しにいつ会っても良いように、お肌と爪と髪のケアしなきゃ!」
「んんーーー、 うん??」

「都内より、ちょっと千葉とか、横浜とか行った方が、もしかしたら良いかもしれない、
ひとまず遠くの美容室を開拓したい、
遠くへ行きたい!!」
「うん。高葉井ちゃん。ちょっと落ち着こう」
「遠くへー!行きたいッ!!」
「はい。深呼吸。吸ってー。吐いてー」

アンタ、ただでさえガチャで出費デカいんだから、あんまり無理しちゃダメよー。
私と付烏月さんのやりとりの奥で、オネェな多古副館長が、そんなこと言いながらケーキ食べてる。
付烏月さんが焼いてきたケーキが気に入ったのか、紙箱から勝手にもう1個、つまんでた。

オネェ副館長、もとい多古副館長には、推しと遭遇したってハナシはもうしてた。
というのも、私が出勤してきたとき、私の顔面が相当に蒼白だったらしい。
「何かあったの」って、「必要ならちょっと休みなさい」って、声をかけてくれた。

推しと至近距離で遭遇すると、体に悪いらしい
(推し成分と尊み成分の急激な過剰摂取)

「副館長、どこか良い美容室、知りませんか」
「今のまんまで十分よ。自信持ちなさい」
「副館長が行ってるところで良いです」
「だから、大丈夫だって。アンタも心配性ね」

「推しに中途半端な顔見せられないぃ……」
「ひとまず、ホントに、落ち着きなさい」

ほら、ケーキ。
副館長がまた勝手に、付烏月さんの紙箱からケーキを取って、それで、私の机に置いた。
付烏月さんはそれをガッツリ見てたけど、
副館長にどうやら何か、弱みを握られてるらしい。
ニッコリ笑われて、付烏月さんがそれを見て、口を尖らせて何も見なかったことにしてた。

「うぅぅ、高ランクで、高コスパの、サロン」
私は相変わらず、美容室捜索に未練があって、
どうしても、今の自分に自信が無い。
「恋ね。これはもう、恋よ」
多古副館長が言った。それはもう、イタズラなニヨニヨの笑顔を、ガッツリ、してた。

7/4/2025, 5:58:51 AM