便利なものなど、ありはしない。
すべて、そう勘違いさせられているだけだ。
街へ行けば、欲しいものは全て手に入る。
他の奴らはそういうが、オレは違う。
街は、苦難の連続だ。
今日のオレは、食糧を目当てに街へ繰り出した。
特に臆病な性格なもんで、住処を出るのも一苦労だ。
まず、明るい。
暗く光を閉ざした、個室のような、洞穴のような。
そんな部屋が俺にはお似合いだ。
というより、
日の光が嫌いなんだ。
世間では、何処でもかしこでも、晴れの日には部屋を飛び出し、レジャーやスポットへ繰り出さずには居られない連中がいる。
太陽の下に出ずにはいられないのだ。
そういうのを、陽キャっていうらしい。
が、
植物人間って、オレは呼んでる。
次にオレを襲ったのは、気温だ。
暑い。
いや、世間では20度前後の気温など、普通なのだろうが、オレは違う。
冷房の効く、涼やかで、落ち着いた、平穏な部屋が快適だ。
そこらに滴る汗をふりまく、小太りな奴らを見てみろ。誰が外に出たがるか。
そうはいっても食糧だ。
食わずにはやって行けない。
重い足と腰を起こして、自分を鼓舞し続ける。
……やっと着いた。
長旅だった。なん時間かかったろう。
途中、目にも止まらぬ早さでオレを轢き殺そうとする鉄の塊。
クラクションを鳴らしてさえくれなかった。
あいつの顔を拝めなかったのは、惜しい。
次見かけたら、タダじゃおかない。
さて、どうするか。
もう目的地には着いた。
だが、その街は、固く、オレへの門扉を閉ざしたままだった。
飛び跳ねても、手を振っても、オレを中には入れさせまいとしている。
……くそ、ここまでか。
やはり、便利なものなんて、世の中には無い。
苦労に見合った、見返りなんてないんだ。
あぁ、腹が減って、もう。ダメだ。
「おかぁさん、これ何?」
「え?あらやだ、アリさんじゃない。持ってこないでよ、やだ~」
「えー、落ちてたんだよぉ」
「置いておきなさい、もう」
―――ピロピロピロリン
「いらっしゃいませー」
……なにが、コンビニエンスだ……
1/28/2023, 11:56:37 PM