卵を割らなければ

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君の声がする

君の声がする。
僕は目を覚ました。
「ここからだして」君はそう言った。
「無理だよ」と僕は答えた。

「だれかいる!?」
君はびっくりしたようだった。
「だれ?」
「僕は僕だ」
君はそれ以上聞かない。
「とじこめられたの。たすけて」
「閉じ込められたわけじゃないよ」と僕は言った。
「だって。せまいもん。こわいよ」
君は泣き出しそうだ。

「落ち着いて。時期が来たら出られるから」
「でられる?じゃあいますぐだして」
「無理だよ」
「なんで?」
「無理だから」
「えーん」
ついに泣いてしまった。

「今はだめだ」
「なんで?」
「君が君だから」
「どーゆーこと?」
「君のままでは出られないってことだよ」
君はしばらく黙ってしまう。
「わたしはわたしじゃだめなの?」
君は不安そうだ。
「変わらないといけない」
「そんな」
君はショックを受けたようだ。
「かわるちからなんてないよ……」
「あるさ」
「…………やだ…………わたしはわたしだもん…………むにゃむにゃ」
君は眠ってしまったようだ。


時が来たら君は変われる。

今はやわらかい黄身だけど、もう少ししたら、かたいくちばしを持ったひよこに変わる。そうしたら自分で殻を壊して、そこから出ることができるんだ。
僕は確信を持っている。だって僕は君の兄さんだから。ピヨピヨ!

2/15/2025, 1:16:22 PM