エネルギーというものは、0から作り出すことは不可能だ。
水を動かそうと思えば、高さという位置エネルギーや、動力という運動エネルギーが不可欠だし、
火を起こそうと思えば、燃料の他に、太陽の光という熱エネルギーや、燃料を擦り合わせる運動エネルギーがいる。
生産者とされる植物たちでさえ、エネルギーを生み出すために太陽の光を浴びる。
基本的に、エネルギーは0からは作り出せない。
生物や自然は、基本的に、エネルギーにエネルギーを加えて、エネルギーを変換、増幅させて、エネルギーを利用している。
0から1を作り出すことは本当に困難なのだ。
1から100を作り出すよりも。
しかし、この世界では、稀に、極稀に、0から1を生み出すという、超自然的なことを行えることがある。
エネルギーなしでエネルギーを生み出すことができることがある。
そういう超自然的な、ありえないことが起きる時、私たちは、人工的に発明されたそれを「永久機関」、個々人や個体、自然現象に発現したそれを「魔法」と呼んでいる。
魔法とは、エネルギーを生み出すことのできる、自然をも超越した、そんな才能を持つもののことを言うのだ。
無から炎の光と熱エネルギーを生み出すとか。
水に触れたり力を加えたりせずに、運動エネルギーを生み出して、水を動かすとか。
エネルギーを生み出すという、超自然的な力のことを魔法というのだ。
それが戦闘や生存に役立つかはさておいて。
魔法とは、無からエネルギーを生み出す力を指すのだ。
…無から生み出せるものが、たとえチーズハットグだったとしても。
それは紛れもなく魔法なのだ。
チーズハットグ、二つ目でもうキツい。
ケチャップとマスタードに彩られたもったりと甘い衣をもそもそ齧りながら、そう思う。
目の前では、魔法が発現した親友が、せっせとチーズハットグを生み出している。
ここ、魔法研究所第二室のテーブルには、既にチーズハットグの山が出来ている。
しかし、まだまだこの山は高くなるだろう。
今日の研究は、親友の魔法の強さや生み出せるエネルギー量、その他詳細を測定する研究だからだ。
アイツの様子を見る限り、おそらくまだこれからは長いだろう…
フードロスは御法度なので、生み出されたチーズハットグは、食べ切らなくてはならない。
永久機関の研究一筋で生きてきた食の細い俺では、実験後に一気食べは絶対キツいことが容易く予想できたので、こまめに記録をとりながら、少しずつ食べることにしたのだが…
しかし、なんでたって、コイツの能力で生み出されたチーズハットグには、律儀にケチャップとマスタードがついているのか。
これらが掛かっていることで、美味しくなるのは分かる!分かるが…
重たい!重たいのだ。フードファイトしている時には!
カロリーがキツい!
いや、カロリーが高い方が、生み出すエネルギーが多いということなので、研究的には嬉しいのだが…
「ごめんな、俺がこんな訳わかんない魔法を持ってたばっかりに」
食が進んでない俺の様子を察したのか、アイツが申し訳なさそうにそう言った。
「もっとカッコよくて役に立つ魔法だったらよかったのに」
自重気味に呟くアイツに、俺はほとんど反射で、声を張り上げていた。
「バカなことを言うなよ!お前の魔法は絶対に役に立つぞ!魔法がなきゃ、永久機関は作れねえんだから。…俺は絶対作るぞ。お前の魔法から、ありとあらゆるエネルギーを作り出す、最強の、『永久機関チーズハットグ』を!」
ぶはっ。
アイツがチーズハットグを生み出しながら、吹き出した。
食べなくてはならないチーズハットグが一本増えた。
「え、永久、永久機関、チーズハットグ?なんだそのダッセェ名前。やだー」
「分かりやすいだろうが。名称は専門家に任せろ」
「いやー、なまじ語感が良いのがよけえダッセェ。ウケる」
「うるっせえ!」
そう怒鳴りながら持っていたチーズハットグに勢いよく噛みついて、口の中に広がるもったりとしたむつごさに、後悔する。
「…なあ、ホント、無理すんなよ…?」
途端に心配そうになったアイツから目を逸らす。
逸らした先の窓には、空が見える。
ずっしりもったりとした、チーズハットグみたいなもこもこ雲が、ゆっくりと窓を横切っていった。
2/24/2025, 4:10:08 AM