「一年後も私のこと好きなら、付き合ってもいいよ」
それはよく告白される私の、決まりきった断り文句だった。
気持ちが変わらなければ、一年後にここで。そう答えて頷いた人全員が、同じ場所には現れなかった。私はちゃんとずっと待ってたのに、誰も姿を見せなかった。
「ほーらね」
今日もまたそう。高校卒業の前日に告白してきたあの人は、やっぱりやってこなかった。私は律儀に日記をつけて忘れないようにしていたのに。ちゃんと学校前の公園で、同じ時間まで待ってたのに。
「みんなそう」
私というアクセサリーを身につけたいだけの人たちは、その中身なんてろくに知らずに告白してくる。初めて会うような人だっている。
それでも中学の頃は、お試しで付き合ったりもした。でもみんな私の顔しか見ないから、なんだかもう全てが嫌になってしまった。
「メイクにだって限界はあるし」
普通の顔でいいなんて言ったら怒られるかもしれない。そうでなければ、忘れられないくらいのとびきり美人になれば、きっと一年後だって皆やってくる。どちらでもないから私はこうなる。
「整形したいなぁ」
そうぼやいた私が踵を返した、その時だった。慌てて駆け寄ってくる足音がして、私はおもむろに振り返った。
見覚えのある顔がそこにはあった。目を見開いて立ち止まっているのは、隣のクラスだった竹田君だ。
「遅れて、ごめん」
竹田君の口が動く。驚きすぎて声が出なくて、私はこくりとだけ頷く。
夢じゃないの? 頭の片隅でそんな声がする。だって本当にやってくる人なんて今までいなかった。みんなすぐに私のことなんて忘れる。ちょっと可愛いだけの、学校が同じなだけの私のことなんて、すぐに忘れるのに。
「でも牧野なら、まだいると思って」
「だい、じょうぶ」
私はぎこちない口調でそう答えた。急に涙が込み上げてきそうだった。胸がいっぱいだった。
全部全部、今日のためのことだった。そんな風に思ってしまうのは大袈裟かな? 都合が良すぎるのかな?
「来てくれて、ありがとう」
そんな胸の内を吐き出すようなつもりで、私はそう言った。竹田君はくしゃりと顔を歪めて、小さく首を縦に振った。
5/8/2023, 11:06:43 AM