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黄昏のキス (お題:Kiss)
デートの帰り道、手を繋いでいた彼が突然歩みを止める。
「どうしたの?ニキ」
「🌸ちゃん、ちょっとこっちに来て欲しいっす」
🌸がニキと呼んだその男はしっぽ髪を揺らし、人通りのない路地裏へと私の手を引いた。
「えっと…路地裏に何かあるの?」
「僕がいいと言うまで絶対にこっちを向かないで欲しいっす」
路地裏は薄暗く、そして逆光になっていたこともあり彼の表情はよく見えなかった。
私としては何の意図を持ってそう言ったのかが分からなかった為少し怖かったが、ふわっと後ろから抱き締められたことで、そんな不安はすぐに吹き飛んだ。
ニキは暫く私を吸収するようにそのままでいたが、私の髪の毛を片側に避けたと思えば美味しそう、などと呟く声が聞こえた。
あ、これはやばいかも。もしかしてこれ捕食対象として見られてる?
ふとそう思ったが、いや彼は人間だ。幾ら普段からお腹を空かせているとは言っても、共喰いなんてしないだろうし、と頭をよぎった考えを否定していたその時。
ニキは、ちゅ、と🌸の項に口付けを落とした。それは一瞬で、とても軽いものであったが、そのたった一瞬の出来事は🌸の鼓動を速めた。
「もういいっすよ」
緊張しつつ彼の方を振り向くも、いつもの彼が立っている。
突然何だったんだろう、という疑問は残るが、私もドキッとしたのは事実だしと気にしてないのを装い、再び手を繋いで帰路に就く。
アスファルトに落ちた2つの影。彼の影が揺らいで一瞬別の形になって、また元の影に戻った。
彼は一体何者なのか、その正体を知るものは居ない。
皆様も黄昏時にはご注意を――。
2/4/2023, 12:25:28 PM