紅月 琥珀

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 あの日の僕達はきっと、誰よりも幼くて純粋に夢を描いていたんだと思う。
 大切な夢を胸に、それを叶えられるようにと共に歩んでいたはずだったのに⋯⋯年を追うに連れて、大切なモノも憧れも、いつの間にか失っていた。
 それに気づいた時にはもう遅くて、たくさんいた同志達は僕と君だけになっていた。
 それでも2人で夢を追い続けた。それなのに、現実は残酷で⋯⋯2人で叶えたかった夢は1人だけの片道切符になると知る。
 その事実に君はまだ気付いていない。1人しか乗れない事も、帰ってこれない事も。
 僕は泣きながら悩み、そして決断したんだ。
 君にその権利を譲る事を。

 だから僕は辞退した。そして、君に最初で最後の嘘を吐く。
『この状況で夢を追うことがバカらしくなった』と、君が傷付いて僕の事を大嫌いって思ってくれるように。

 あの日の君は泣きながら僕を説得してきた。正直決心が揺らぎそうになったけど、でも⋯⋯心を鬼にして酷い言葉を浴びせ続けて、最後は僕の思惑通りになったと思う。
 君が旅立った後、少しずつ⋯⋯でも確実に僕らが育った街は荒れ果てて、見る影もなくなっていき、最後には誰もが諦めて時間を浪費するだけになっていった。
 もうすぐ星(ここ)は終わりを迎えるだろう。あの日から宣告されていた銀河の終わりに巻き込まれて、その他の惑星ごと消滅する。
 その前に、もう会うことすら叶わなくなった君に、謝りたくてこうしてメールを送っています。
 あの日君を傷付けてまで別れたことを、未だに後悔しています。本当は僕もいきたかった。それでも、ずっと少年のままで憧れを持ち続けた君なら⋯⋯母星(ちじょう)で終わりを迎えるよりも、憧れ続けた宇宙で終焉を迎える方が幸せなんじゃないかって思ったからそうしたんだ。
 普通に譲るって言っても、君は理由を話さない限り納得してくれないだろうから、傷付けてでも宇宙(そら)へ旅立って欲しかった。例えそれが低確率だったとしても、生き残れる可能性があるなら他でもない君に生きて欲しくて、酷い事を言ってしまったんだ。
 嘘ついて、傷付けてごめんなさい。
 きっとこのメールが君に届いた頃にはもう、母星(わたしたち)は消えているだろうけど⋯⋯どこか遠い宇宙で、今も元気に旅している事をいつだって願っています。

 25歳の君へ56歳の僕から愛を込めて。

 ◇ ◇ ◇

 そのメールは突然届いた。差出人の名前を確認して、酷く驚いた事を覚えている。
 喧嘩別れした筈の君からだったから、酷く動揺していたけど気になって直ぐにメールを開く。
 そこに書かれた内容に僕は涙を堪えきれず、それでも泣きながら最後まで読んだ。
 この宇宙船の航行速度から計算して、今僕が何光年先を行っているのか。大体の計算だけで現在の僕の年齢を当ててくるのは、流石と言うしかなかった。
 彼女はそういうのが凄く得意な人だったから。
 僕が巻き込まれない様に、帰ってくるなと釘をさしたかったんだろうな。
 きっと、書かれていた内容も本心なんだろうけど―――僕にとっての未来の記憶を送る理由なんてそれ以外にないだろう。
 彼女は得てしてそういう人なのだ。なら僕は、君の年齢に達するまでに新しい惑星を見つけてみせるよ。
 そしてその星を開拓して、いつか僕達が思い描いた宇宙(そら)で、もう一度会おう。
 そしたら今度こそ、その手を離さないから―――僕達の壊れてしまった宇宙(そら)を探す旅に行こうか。

2/12/2025, 3:12:28 PM