まにこ

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自他ともに認める未読無視の天才だ、とA子は思う。
LINEというやつはお手軽で且つ厄介なコミュニケーションの代物だ。直ぐに返信するつもりが無くても間違って画面をタップしてしまったらあわや一巻の終わり。相手側に既読がつき、一刻も早く返信しなければならないと思わせる魔力のようなものがある。
「既読 つけずに 読む方法」
スマホで未読無視のやり方を検索してからは、彼女はいつもそれで内容を確認しているのだ。
中には先に既読だけ付いて、時間が経ってゆっくり返信が来る人もいる。相手から来る分にはそれで構わない。しかし自分がそれをやるとなると、どうもそわそわして落ち着かない心持ちになってしまう。
結果、一日の未読無視が一週間になり、気付いたら一ヶ月放置する形になっていたなんてのもザラにある。
無論、それはLINEの内容にもよるし、早めの返信が必要だと感じた場合はそれに限ったことではない。
その点昔は良かった。ガラパゴス携帯なるものを開いてドキドキしながらお互いにメールを送り合う。
そこには既読表示も何も無い。どことなくせっつかれるような気持ちにもならず、自分のタイミングで返事をすることが可能だった。
かと言って今更過去に戻るわけにもいくまい。何もLINEそのものを否定しているつもりは無いし、今でも十分にその恩恵に預かっていると思う。
ただ、一時社会問題にもなった既読表示のアレ。既読が付いたらすぐに返信しないといじめられるとか、未読無視はそれよりも質が悪いとか何とか。
読んだ、読んでいないにいちいち振り回されること自体に辟易する。
A子はB男からのLINEのトーク画面を開いた。
……既読はまだ付いていない。じりじりした気持ちを抱きつつ、再びネットサーフィンに勤しむことにした。
後に彼女は男から実はブロックされていたことを知るも、まだ期待と不安を胸にひたすら既読がつくのを待ち続けているこの時間は、ある意味で幸せなことなのかもしれない。

9/1/2024, 9:04:45 PM