ミキミヤ

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朝、いつもの最寄り駅までの道のりに、唐突にぽっかりと、更地になった土地が現れた。私は思わず立ち止まって、真新しく土が剥き出しになった地面を見つめる。え、この場所って、どんな建物が建ってたっけ、と。
毎日この道を歩いてきたのだ。何度もこの土地の前を通ったはずなのだ。それなのに、思い出せない。住宅だった気がするが、その記憶はハッキリとしない。どんな壁の色で、どんな屋根で、どんな玄関で、どんな庭で……全部靄がかかったように思い出せなかった。

帰り道、またあの更地の前を通る。やはり記憶はハッキリとしない。ふと思いついて、某地図検索のストリートビューで探してみた。
ここが駅であの道がここだから……と方向音痴なりに地図を見て、やっとそれらしい場所に画面の中で降り立ってみる。
その画面を見た途端、ジグソーパズルのピースが嵌るように、頭にかかった靄が晴れた。そこにあったのは、白い壁に赤い屋根が特徴的な、どこかメルヘンチックなところを感じさせる大きな家だった。大きな家だな、掃除が大変そうだな、なんて、過去に思った覚えがあった。何でこんな印象に残りやすそうな家の姿を忘れていたんだろう、と不思議になった。

ストリートビューを解除して、平面になった地図を眺める。この地図のこの場所に次に載るのはどんなものになるだろうか。もしかしたらしばらく更地のままかもしれない。それとも、土地がけっこう広いから、家が新しく何軒か建つかもしれない。
そんなふうに、この土地が変わって、新しい地図になる日のことを考えると、私は、少し寂しいような、それでいて楽しみなような、そんな気持ちになるのだった。

4/7/2025, 7:53:00 AM