ずっと同じことの繰り返し、毎日毎日飽きるくらい繰り返す。それが日常で、当たり前のことだ。
ドラマや映画で「当たり前のことなんてない」と涙ながらに叫ぶ人たちの気持ちなんてわからない。だって毎日当たり前のことがない、新しいものだらけの世界のほうがよほど恐ろしいじゃないか。
―なぜそんなに特別なことにこだわるのか、理解できない
隣でグズグズと鼻をすすりながら映画の世界観に浸る彼が羨ましいと思った。
ふつう、というにはあまりにも感受性が豊かすぎるこの男が血を分けた兄弟だなんてありえない。ずっと幼い頃から周りに洗脳されるが如く言われ続けたことだ。
今さら気にすることではないけど、彼のことも私のことも否定するのにうってつけの言葉だ。
両親も友人も人間として生きるのに必要なツールだったと思えば辛くもない。喋るだけの機械に囲まれて育っただけ。差があるのなら、彼は信じる強さがあって私は諦める強さがあっただけ。
擦り減るものは同じはずなのにこんなにも結果がちがうなんて、もっとはやく知りたかった。
「ティッシュならいっぱいあるから使いな」
そう言って、ちょっとお高めの鼻に優しいティッシュを箱ごと渡された。慰めの言葉なんかよりずっと現実的な優しさが心地いい。
また明日がくるのならば、これに似た優しさが転がっていてくれたらいいのに。
【題:また明日】
5/22/2024, 11:32:35 AM