無音

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【111,お題:はなればなれ】

私には双子の妹がいたんだと、それを伝えられたのは18歳の誕生日だった。

大人子供関係なく、人間という生き物は思いの外高く売れるらしい
貧しさに耐えかねた私の実の両親は、まだ幼かった私と妹を人買に売ってしまったそうだ
何度か居場所を転々として、たどり着いたのがこの今の家だと言う

にわかには信じがたかった、実際教えられたところでそれを証明出来るものはないわけで
両親ですら人伝に聞いただけであり、私を引き取った時には既に妹は居なかったそう

結局のところ、あまり信じてはいなかったのだ、両親だと思っていた人が他人だった
自分が養子で実の子供ではない、そこには少し驚いたが、言ってしまえばそれだけだった
実の子でなくとも、私の親は間違いなくこの人たちでそれはこれからも変わらない

妹がいた、ということもやはり”それだけの事”に過ぎず
その事実を頭の片隅に押し込んで、たまに思い出しては
「どんな子だったんだろう」「一緒にいられたらどんな生活だったんだろう」と
軽く考えを巡らせ、いつか答え合わせが出来たらなぁ、と想いを残し日々を浪費していた。

だが、答え合わせは思いのほか、早く出来ることとなる


晴れた日だった、とても天気がよかったから外に出て散歩をしてたんだ
近くにある、自然に咲いたラベンダーのお花畑 そこに、あなたは居た

大量のラベンダーに埋もれるようにして座り込んでいた
ちらりと見えた横顔は、自分がもう1人居るんじゃないかと思ったほどにそっくりで
そんなわけない、と思いながらも教えられていたその名を呼ぶ

「...ルミア...?」

「えっ、嘘でしょ...もしかして、ノア?」

真ん丸に見開かれた目は、ますます自分に似ている
信じられないような顔をして、パタパタとこっちに走ってくる彼女を目に
ああでも、背は自分の方がちょっと高いかな、なんて考える

「ルミア...本当にルミアなのね!」

「ノア!やっと逢えた、お姉ちゃん!」

ラベンダー畑の真ん中、2人手をとってはしゃぐ
”お姉ちゃん”呼ばれた記憶はないのに、やけにその呼び名がしっくりきた

「ずっと逢いたかった...」

「私も、ずっとずーっと探してたの!」

ぎゅうと強く抱き締めながら、もうはなればなれになりませんようにと願う
実親が今どうしているかは分からない、ただようやく巡り逢えた血縁を、もう手放さないように

「ねぇ、ちょっと一緒に来ない?見せたいものとか...あなたに話したいことが沢山あるの」

「私もいっぱいお話ししたい!いいよ一緒に行こう?」

手を繋いで歩く2つの影は、今までにないほど幸せそうだった

11/16/2023, 11:56:39 AM