夕暮れ時の教室。
外では暗くなっていくのに負けじと声を張り上げる野球部の掛け声とか、合奏中であろう吹奏楽部の楽器の音とかが鳴り響いている。私しかいない薄暗い教室にそれらの音は吸い込まれて、ここには鉛筆を滑らせる音がリズム良く響いているだけだった。書くのに没頭していた私は5時を告げるチャイムが鳴り、そこでようやく顔を上げた。書き上げたものは自分の中での力作で、相当集中して書いたからか緊張の糸が解けて溜め込んでいた呼吸が一気に肺へと流れ込んでくる。久しぶりに少し長文になってしまったので手首の痛さは否めないが、ようやく自分の満足するものがかけたのだ。代償としては安すぎるぐらいのものだろうと1人静かに唇に弧を描き、荷物をまとめ始めた。帰り支度が整うと目の前のカーテンが揺れて、オレンジ色の眩い光が視界に広がる。カーテンが光を孕んでいてまろやかになっていたからか、思っていたよりも鮮烈に夕日が網膜を焼いた。5月半ばとは思えない爽やかな風がカーテンを揺らす。紅鏡は傾けば傾くほどに鮮烈な光をこの世に残して、この後に連れてくる暗闇をより濃く落としていく。
暗闇になってしまう前に、私はその場でサッとカーテンを開けて、窓の外を覗き見た。この夕日が暗闇を連れてくるのならば、世界を染めあげる眩さとともにこの気持ちも去ってもらおう。沈む夕日に連れられて届かない想いもどこか遠くへ、絶対に届かない場所まで運んで。そんな願いを込めて、さっきまで書いていた紙を折りたたんで紙飛行機をつくる。風が私の腕を押した。風に乗った紙飛行機はそのままどこかへ飛んでいってしまった。
こんなこと一体何回続ければ気が晴れるのだろうか。やっぱり明るさが連れてくるのは深く黒い暗闇であって、私の穴は決して埋まってくれない。
「返事なんか来るわけないのに…」
ポツリと呟いた声に答えが返ってくる訳もなく、持っていたシャーペンが床に落ちる音だけが妙に大きく教室に響いた。
4/15/2024, 10:58:10 AM