300字小説
天からの贈り物
冬物を繕おうとして開けた行李の奥から、薄い羽衣を見つけたとき、私は全てを思い出した。
自分が雲間から眺めていた地上の若者に恋をして、天から降りた天女だということを。
『お願いです。これを隠して下さい。そして、天女であることを忘れた私を貴方のお嫁さんにして』
思い出しては、もう地上にはいられない。庭で遊ぶ夫と子供達の声に涙しながら羽衣を羽織る。
そのまま、私は高く高く天に昇っていった。
空から美しく色ついた葉が一枚、ひらりと風に乗り、飛んでくる。
「遠い昔、天に帰ったご先祖さまが、子孫の私達に贈ってくれていると言われているの」
春は桜、夏は蛍、秋は落葉、冬は風花。
「元気にやってますよ」
私は高い空に手を振った。
お題「高く高く」
10/14/2023, 11:42:52 AM