思いついたらすぐに行動に移す自由奔放な少女と、決められたことを遵守し道を外れることなく生きる少年がいた。
二人の相性は最悪で顔を合わせるたびにいがみ合い喧嘩していた。ただ喧嘩とはいってもお互いの悪いところを指摘し合うだけの戯れに過ぎなかった。
だが、周りは違った。
二人が喧嘩をするたびにどちらかに便乗してもう片方を酷く罵った。ありもしないことや嘘、罵声や否定を繰り返した。周りの苛烈さに本人が止めに入っても事態は悪化するだけで、終いには二人の存在自体を否定した。
周りから孤立してしまった二人は、自然と手を取り合いその場を去っていった。もともと意見や価値観が合わなかっただけでお互いを嫌ってはいなかったのだ。そう、嫌いではなかった。
―少女は少年の常に正しくあろうとする芯の強さに憧れていた
―少年は少女の即決し即行動する姿に憧れていた
お互いになんとなく察していた。相手が自分に憧れていること、自分が相手の憧れになっていること。二人は知っていたのだ。
譲れないものがあるからこそ喧嘩になってしまっていただけで、相手を否定することも罵ることもありえないことなのだ。二人にしかわからない、歪なコミュニケーションをとっていたのだ。
「あの人たちは正しくないね」
「はやくあの人たちから離れるべきだったな」
クスクスと笑いながら二人は歩く。
身勝手極まりない周りの声が聞こえなくなるまでずっと、ずっと。
【題:ないものねだり】
3/26/2024, 11:17:54 AM