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タイムマシンがあったなら。

昔の自分と、その家族へ会いに行く。
私は子どもの頃から常に母の後ろに隠れているような、とてもシャイな子だった。そして泣き虫だった。

今なら分かる。
私は生まれつき耳が聞こえない。
補聴器は2才から着けていたけれど
当時はパソコンはおろか、ネットワークはまだ発達していなかった。
親を含む周りの大人達は、
「補聴器を着けていれば聞こえる。」と誤解をずっとしていた。
誰も、その事を疑うこともしなかった。

補聴器を着けていれば聞こえるというわけではない。
それはとんでもない勘違いだったのだ。

外部から全ての音を拾い、更に大きくする。
それは合っている。

しかし、私の場合。ここはあえて私の場合とする。
【感音性難聴】である。
それはどういうことか?

それは脳の問題なのか、それとも聴神経に問題があるのか。それは今も原因は分からない。

しかし、分かることはただ一つ。
私が補聴器を着けていたとしても、補聴器によって取り込んだ"音"は歪んでいるのだ。
常にモヤがかかっていて、音が"音"として、言葉が"言葉"として聞くことができない。

つまり、言葉が【不明瞭】なのである。
だから、相手の声やどこかしらから流れる音がどのようなものであっても、相対的に分かりやすく【高い】か【低い】か-だけなら、まだかろうじて分かる。

特定の場所から流れる、特徴的なリズム感のあるもの-例えば遮断機の警告音や救急車など-であれば、視覚的なことも補って認識してるものはある。
ただし、それも相当近くならないと何の音かは分からないだろう。

…そういうわけで、子どもの頃の私は、自分が補聴器を着けていても相手の話が分からなかったのだ。

目の前にいるのに、相手の話が分からない。
みんなの話の輪に加わることができない。
それは、言葉を言葉として聞き取れないからだ。

もちろん口の形を読めば、読み取れることもある。
しかし、幼い私はまだそれほど多くは、言葉の意味を理解できる年頃ではなかった。

皆には、想像してみてほしい。
自分以外は 全ての人達が宇宙人だ。
ほとんどが歪んでいてモヤがかかっていてそれは自分が知る音ではない、そんな言葉があらゆる人々から到底聞き取れないスピードであなたへ一斉に向けられたら?

あなたなら、相手と対話ができますか?

昔の自分に会って、それでも自分がどうするべきかを教えてやりたい。
そして、家族には「声」だけがコミュニケーションではないことを伝えたい。

今、あなた達の娘は、今もディナーテーブル症候群によって孤独に晒されている。



7/22/2023, 4:18:09 PM