『春爛漫』
春の心象風景。
小さな川に沿った並木道を、そぞろ歩く。
僅かに霞む空には一筋の雲もなく、春特有の淡い青色をしている。まだ日暮には早い昼下がり。降る陽光は新たな命の芽吹きを祝福するように優しく、穏やかだ。川面に反射する銀色の光も柔らかい。その日差しの中を踊るように吹く風は、朝晩の厳しさを忘れたような暖かさを含んで、頰を撫でる。
見上げる並木道の桜は今が盛りと咲き誇り、風のダンスに誘われて枝を離れた僅かな花びらが、ふわりふわりと舞っていた。そのうちの幾らかが川へと舞い降りて、ゆっくりと下流へ運ばれていく。その様を眺めると、まだ新緑の青さのない水と土の香を含んだ大気の匂いに、僅かに花の香が混ざり合ったような気さえする。
ふと道の先に目を向けると、桜並木が薄紅色のわたあめか入道雲のようにこんもりとしていて、春の柔らかな空気を際立たせていた。
春の中を牛歩の如き呑気さで歩み続ける私の元に、ひらひらと散る花弁が舞い降りる。
それと同時に、脳裏に言葉がひとつ浮かび上がった。
春爛漫。
4/10/2023, 11:21:20 AM