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脳裏では姦しいほどに言葉が行き交っている。

「煩いな。静かにしたまえよ。」

ぼやく声すら掻き消して、あーだこーだ。
いつまでも言葉が鳴り止む気配はない。

これが学校だったら
言う事を聞かない問題児クラス確定だ。

そんな困った環境だが、
「今日のお題は脳裏だとよ」
そう小さく呟くと
あれ程煩かった言葉が嘘のようにピタリと止んだ。

暫し耳が痛くなるほどの沈黙が訪れる。
このまま永遠に静かになってしまえばいいのに。

そんなささやかな願いすら叶わず、問題児たちの間で小さなざわめきが徐々に大きく広がっていく。

「…脳裏」
「脳裏に浮かぶ…とか?」
「何が浮かぶんだよ」
「思い出とか、人の顔とか、景色とか色々じゃね?」
「うわー、種類ありすぎ」
「えー、どれが良いかなぁ」
「オリ話にする?体験談?それとも、グダグダ能書き?」
「能書きとか酷くね。草生えるんだけどwww」
「生やすな生やすな」
「あのさあのさ、そもそもの話なんだけど。話書く体力、コイツある?」
「いや〜今日は無さそうよ。仕事で頭使ったみたいだし」
「最近寝不足気味みたいだしね〜」
「何それ使えなくね?」
「そういえばさ、今日はアイツ来ないね」
「アイツ?誰それ?」
「あぁ、知ってる!文字書いたカードを無言で差し出してくる、アイツね」
「そうそう。無言でカード差し出して、いつの間にかいなくなっちゃうアイツ」
「アイツ喋んないのかな?」
「喋んの嫌いなんじゃない?」

随分好き勝手言っている。

ため息を付き、渡そうと準備していたカードをこっそりと撫でる。

今日はこのカードも、自分の出番も必要なさそうだ。

11/9/2023, 10:56:20 AM