娘が死んだ。
鍵をあけて、戸をあける。
バタン、と戸が閉まる音が聞こえてから、あ、家に帰ったのかと、暗い玄関を見ながら気づいた。
片手を見たらビニールの袋を持っていて、アルミの缶が汚く擦り合っている。その音が苛立たしく、いや、気持ち悪い、という方が正しいかもしれない。
袋の中にカンカンと、軽く鳴る音が、重たく耳に届いて、意識にぶつかる。
音を振り切るように、暗い玄関を歩き、暗いキッチンを通り過ぎ、暗いリビングのソファの腰を落とした。
プシュッと、空気が抜ける音に続いて、臭うアルコールの嫌な香り。消毒液の苦手な娘なら、そんなものとっとと捨てろ!とでも言うだろうか。
生前の思い出がチラつき、それから逃れる思いで、グイッと缶を垂直に傾け、気づけば空になっていた。
頭から足の指の先まで、体がほたっているのを感じるほど、着ているネクタイまで黒いスーツに首が締められる感覚。
酸素が行き届かなくて気絶するように、目を閉じた。
全てが暗いままだった。
10/28/2023, 3:50:17 PM