どこまでも続く青い空
ある秋の昼下がり、私はおよそ十年間暮らした家を出た。鍵は閉めない。いや、鍵はもともと持っていないのだった。私は何も持っていない。
足の裏が地面に触れると、その感触の生々しさに一瞬怯んだが、私は慎重にゆっくりと歩み出した。大地が身体を支えてくれることの安心感。頬を緩めて、歩調を徐々に早めていく。いつしか私は駆け出していた。
前方から乾いた風が吹いている。見上げると雲のない澄み切った青空がある。背後から私を引き戻して閉じ込めようとする人は、もういない。
私は今、海の見える町に住んでいる。
10/23/2023, 4:53:33 PM