秋茜

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“フィルター”

「フィルターかかりすぎ」

 呆れ声で投げられた言葉に首を傾げる。なんの話をしていたんだっけ。そんな話はしていなかった、はずだけど。

「不思議そうな顔すんなよ。こっちが恥ずい」

 ぶつくさと文句を言っている、その顔はほのかに赤みを帯びている。呆れているだけではなくて、照れているのか、と気づいて瞬いた。照れている。オレの言葉に?

「だって本当のことだろ」

 オレはただ、キミはすごいねって。思ったことを言っただけだった。ぶっきらぼうに見えて気配り上手で、粗雑に見えて色々考えている。オレに人の温もりを分け与えてくれたひと。自分という人間でも、肯定されて良いのだと。根気強く、一生懸命、教えてくれた。世界を色鮮やかにしてくれたひと。

 告げればまた、意味がわからないという顔で首を振る。その瞳をじっと見つめれば、落ち着きをなくして逸らされる。

「……お前さあ」
「うん?」
「なんでそんなに、オレが好きなの?」

 心底理解不能だと声は言う。軽々とオレをすくいあげた癖に、平気な顔でオレの大事なキミを貶す。それがとても気に食わなくて──だけど、そんなところを愛しく思う。

「理由なんて、もうないよ」
「はあ?」

 しかめっ面には微笑みを。眉間のシワをゆるりとなぞる。嫌がるようにのけぞった顔の、頬はやっぱり少しだけ赤く。他人のことはすくえるのに、自分のことはすくえないひと。だから、今度はオレの番。

「理由があるから好きってさ、理由がなくなったら嫌いだろ。好きだから好きなんだよ」

「なんだそれ」

 キミがね。キミであるだけで。

「フィルターなんて、かかってるに決まってる」

 オレの人生をこれだけ幸せにしておいて。贔屓目なしで見れるわけがないだろ。

9/9/2025, 11:59:28 PM