「私ね、遠くの街へ行くんだ」
いつもと同じに思えた帰り道。
あなたがふとこぼしたその言葉が
信じられなくて、信じたくなくて。
少しの間の後、僕は聞き返した。
ただの聞き間違い、もしくは
冗談であることを願って。
「明日、遠くの街へ行く」
幼子をなだめるような、優しい声。
さっきよりもゆっくりと、はっきりと。
向けられたあなたの笑顔は
痛いほどに優しくて、かなしかった。
「私ね、やりたいことがあるの」
知ってるよ。知らないわけない。
ずっと、あなたを見ていたんだ。
「いつか、会いに来るよ。お互いやりたいことやれたらさ」
無理だよ。
だってあなたがいなきゃ
僕はなんにもできないんだよ。
あなたがいないと、僕は
やりたいことなんか、なんにもない。
「私がいなくても、もう大丈夫だよ」
あなたにはわかんないよ。
大丈夫じゃないよ。
あなただけが、光なんだ。
「私はあんたの神様でも太陽でもない。そして、あんたは月じゃない。やりたいこと、やれるよ」
僕のやりたいことって、なんだよ。
「やりたいこと見つかったら、手紙出してよ」
その言葉に、僕は頷いた。
あの日から2年と数ヶ月。
僕は遠くの街へ手紙を出した。
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「遠くの街へ」2023. 2. 28
2/28/2023, 1:20:38 PM