「なんで!どうして!」
彼女は、ものを投げつけながらヒステリックに叫んだ。
だが、彼女にとっては残念なことにそれが僕にあたることはついぞなかった。
「仕方ないじゃないか。君とは合わないんだもの。」
「ひどい…!ひどいよ!ずっと一緒に居てくれるって言った癖に!」
ごめんな。という言葉は喉元に押し留める。言ってしまえばきっと、彼女が余計に苦しくなるだろうから。
ずっと、一緒にいるつもりだった。
家族を失い、僕以外に信じられる人がいなくなっていた彼女から離れるわけには行かなかったから。だってそうだろう?僕がいなくなれば、彼女は今度こそ死んでしまうかもしれない。
だけど、それにも限度がある。毎晩毎晩時間も気にせず鳴り響く通知音に、少しの未読で責め立てられる始末。
僕にも僕の人生がある。それに、彼女だってここ最近は僕以外にも心を許せる人が出来てきた。正直、僕の存在はもう彼女には不要なのだ。
だから別れを切り出した。付き合ってるわけでもないのに別れ、だなんておかしな話だけど。
「そんな事言うなんて、あたしのことはどうでもいいんだ…」
最初は、そう言って泣いた。それでも僕が折れないことを悟ると、
「だったらあたし、死ぬから。」
そう言って、どこからか取り出したカッターを喉元に当てた。
そんなもので死ねるわけもないだろうに。
「僕は…それでも一緒には居れない。」
そう告げると、彼女は傷ついた表情をして、苦しげに呻いた。
それを背に僕は立ち去る他なかった。ここにいては、より彼女に未練を与えてしまうから。
どうか彼女には真っ当な、依存しない生活をして欲しい。
彼女の幸せを、心から願うものとして。
「君も、あたしを裏切るんだね…」
そっと呟いた彼女の、最後の声は届かない。
6/26/2025, 10:36:25 AM