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冷たい。
あなたの体。
雨に打たれて、氷のよう。
肌は、ひたひたと水が垂れてくる。
だから、一人にしたくなかった。
あなたが、溶けてなくなってしまいそうな気がしたから。
でも、あなたは言った。
「一人にしてくれ……」
私は、その手に触れた。
手と手が触れ合う瞬間、造られた悲しみを思った。
ヨルとナギは、アンドロイドの兄妹だった。
夜、空を見上げる時、ナギはいつも思う。
兄の、悲しい裸体を。
彼を覆う人工皮膚は、既に古めかしく、そして伸縮性がなかった。
十年に一度、取り替えなければならないのに、もう、ナギたちの管理者は死んで、百余年と経つ。
今までは、お互いがお互いの管理をしてきた。
だが、戦乱が始まって以来、ヨルはこれまでにも増して、口数が少なくなった。
頑なな兄の姿を見て、ナギは、古めかしいヨットを、湖面に浮かべた。
地下水が、水面を覆っている。
海浜都市だった、ツクボ市は、既にもうない。
水は綺麗だったが、飲めるものではない。
人が飲むものではないのだ。
アンドロイドですら、この汚染された水を分解するのには、時間がかかる。
戦争によって、積層された都市群は、かつては防衛機能を保っていたが、それも既に崩壊している。

7/31/2023, 10:14:32 AM