サイゴ

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 カンダヨシノリという人物に注目する。人にもモノにも、とにかく周囲のことに興味が持てないという、生きていくうえで致命傷とも言える欠陥を彼はもっていた。ただ、物書きをしている間だけは自他の心の動きや出来事を思い出そうと記憶を観察していることに気づいた。彼にとってモノを書くことは救いの糸であったのだ。
 観察者としての眼を意識の外に置く習慣のついたカンダは、周りを俯瞰して動けるようになった。グループでの会話は流れを大切にし、仕事はゴールから逆算する。計画を綿密に立てたり過程を重視するのはやめ、突然のトラブルにも対応できる柔軟性を身に着けた。
 ある日カンダは同期の人間からサイコパスと揶揄されてしまう。機械的に人との付き合いを処理しているように見えるのだと。事実、人やモノに興味のあるカンダの眼は彼自身の意識の外にあり、鋭い指摘だった。
 離人症のような観察者の眼が自分の身体と一つになれば、真人間になれるのではないか。だが、そうなると周りに興味を持てない本来の自分は何処に行くのか。救いだと感じた物書きも、その筆を取った時点で2人の自分になる呪いだったのだと後悔しつつあった。

(気が向いたら続く)

6/2/2024, 10:34:29 AM