#哀愁をそそる
捨てられない鍵が一本有る。
正確には鍵ではなく、錠。
ねじ締まり錠というこれは、捻って入れ込んで施錠するという奴だ。
しかも内側からしか役に立たない癖に、硬くて重い。
それを昔、くるくる回しては閉めて飽きもせずに回し続けた時がある。
その度に祖父を庭に締め出して、ガラス越しに遊んでくれたのを覚えている。
勿論、たまにちゃんと叱られた。
けど、この取っ手の形が気に入っていた。
小洒落たティースプーンみたいで。柄が付いていた。
どうと言うことはない。
いい加減面倒だからと変えただけだ。
鍵がない只の内側からしか開けられない錠は、令和の時代にまだ存在するだけ貴重かもしれない。
よりによって3個もあるから、
その内の一つをくれないかと言った。
業者さんには物好きだと笑われたけど、多分似た様な物好きは、きっと他にもいるだろう。
今は紐を付けて小物入れの横に並べている。
ふと眺めては過去に思いを馳せる。
哀愁をそそるこいつに、ネジ締まり錠以外の名前を付けたい所だな。
例えば、そうだな。
思い出、メモリー、モーメント、いいや。
外部記憶装置とかどうだろう。
ちょっと長いか。
ロマンを込めすぎたかな。
11/5/2023, 3:35:26 AM