ささほ(小説の冒頭しか書けない病

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嵐が来ようとも

嵐が来るのだと大人たちが噂し始めた。しばらくして嵐がもうすぐ来るのだと公式のニュースで流れた。嵐を知らない幼年組は少し不安そうだが、大人たちが幼年組のこどもたちを優しく諭す。

「嵐は怖くないのよ。嵐は私たちに富をもたらすの。たくさんの貴金属や肉や魚、誰も知らないような本を落としてゆくこともあるの。だから大丈夫」

私は来年成人だ。私が幼年組のころ嵐がきた。村の勢力が書き換わり、食べ物も、飲み物も、着るものも、歌も、物語も変わってしまった。みんなその変化をあまりに気楽に受け止め、過去の村のことを忘れてしまったようなのが怖かった。

また嵐が来るとして。私は私でいられるだろうか。私は私でいたい。嵐が来ようとも。

7/29/2024, 10:18:57 AM