不整脈

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第一歩は、靴の中の小石だった。
痛いけれど、脱げないまま歩き続けた。
舗装のひび割れを辿って、
フェンス越しの向こう側へ。

風景は変わらない。
でも、私は知っている。
今日の風は昨日の風じゃない。
空の色も、ほんの少し違っている。

曲がり角には誰かの影があった。
姿はないけど、そこにあった。
忘れられたガラス片、ぬるんだ空気、
濡れたままの手すり──
冒険とは、きっとこんなものだと思う。

何かを探してるのに、
何を探してるかは知らない。
「たぶん、ここじゃない」
それだけが頼りで、
それだけが、地図になる。

帰り道に見かけた猫が、
来た時と同じ場所に居てくれる保証はない。
だけどそれも、きっといい。

誰にも説明できない風景を、
誰にも話せない形で、
私はそっと、胸にしまっていく。

たぶん冒険とは

「どこに行ったか」じゃなく、
「誰にも伝えられないこと」のこと。

7/10/2025, 12:14:26 PM