【もしもタイムマシンがあったなら】
大真面目にノートパソコンと向き合い、レポートを作成している君の横。ソファにごろりと仰向けになって、スマホでアニメ映画を観ていた私は、映像がエンドロールに差し掛かったのを見てとって片耳のイヤホンをぽいと外した。
タイムマシンに乗って過去へ行き、恋人が刺し殺されるのを防ぐために奔走する男の子の物語。去年大流行したけれど結局観には行かなかったそれを、せっかくサブスクで観られるならと再生してみたけれど。
「観終わった?」
君の問いかけに「うん」と頷く。それなりに面白かったけど、去年友人に誘われて観に行った君が「もう一度は観なくて良いかな」と言っていた理由はわかったような気がした。
「もしタイムマシンがあったら、私やってみたいことあるんだよね」
なんとはなしの雑談で口にすれば、君の視線がしっかりと私を向いた。
「君と会った日に戻ってさ」
ぴくりと君の肩が震えた。少しだけ不安そうに下がった眉。出会わなければ良かったとでも言われると思っているのだろうか。くすりと笑って、手の中のスマホを示してみせた。
「君が思いっきり自己紹介で噛んだところ、動画で撮っておきたい」
完璧な優等生の君があんな失態をするところ、あれ以降拝んだことがない。知ってたら絶対、事前に録画ボタンを押しておいたのに。
「ははっ、なにそれ」
安堵したように君が噴き出す。ケラケラと声を上げるその自然な笑い方が、私は世界で一番好きなんだよ。心の中だけでそう囁いた。
7/22/2023, 10:19:46 PM