わをん

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『一年後』

「僕が無事に帰ってきたら、一緒になってくれないか」
半年前に戦役へと旅立った彼との約束は不定期に届く手紙や葉書で今も守られていると感じていた。何度も取りだしては読み返した葉書は四隅の角を少しずつ丸くさせていく。
けれど、遠い島国で自国軍が勝利したという報せを新聞で見てからパタリと連絡が途絶えた。空から降伏勧告の紙が舞うのを見て、新聞に書いてあることが本当なのか、敵国の報せが本当なのかわからなくなった。何度も取りだしては読み返した葉書の文字は幾度も触れていたためか少しずつ薄れてしまっていたから、覚えてしまった内容を胸に唱えては彼の無事を願っていた。
約束をした日からやがて一年が経つ頃。文字に表せばたったの一行。月に替えれば12ヶ月、日にして365日。彼の一生は紙切れ一枚となって知らされた。
「お父さんは、本当はいつごろ亡くなってしまったのかしらね」
何も知らずに腕の中で眠る我が子に涙がひとつふたつと落ちてしまう。悲しいけれど、悲しんでいる暇はなかった。

5/9/2024, 4:03:09 AM