燈火

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【明日、もし晴れたら】


この街は『雨の降る街』と呼ばれている。
名の通り、僕の知る限り二十年以上は降り続いている。
日照りの強い場所なので、初めは恵みの雨だと喜ばれた。
しかし今ではもう、誰もが降りやむ日を待っている。

街を出る人が多いなか、僕は五年ほど前に越してきた。
仕事の都合もあったけど、なにより雨が好きだから。
出歩く人が少なくて静かで、毎日が読書日和になる。
上から見ると、傘が花のように感じられるところもいい。

この街で生きる人にとって傘は必需品だ。
小雨でも大雨でも、無いと濡れることに違いはない。
それを君は持っていなかった。わざと持たずに外にいた。
座りこむ君に傘を差し出せば、寂しそうな笑顔を見せる。

『雨の降る街』は君の生まれた日に始まったらしい。
神様も祝福している、と両親はとても喜んだとか。
けれど連日続く雨に、君への目は厳しくなっていった。
僕は偶然の一致だと思うが、実際、今日も雨が強い。

本当に自分が原因なのか、確かめようとしたことがある。
君は言う。「街の外に出れば証明できると思いました」
だが、災いを振りまく気か、と周りに叱られたという。
そのせいで、君は雨しか知らない。

僕は君を自宅へ招き、街の外を見せることにした。
いろんな天気の、いろんな場所の写真を机に並べる。
それらを眺める君の目は、終始、輝いていた。
ありふれた日常も、君にとっては素敵なものなのだ。

「なんでこの街に来たんですか?」首を傾げて問われた。
「雨が好きだから」君はくすっと笑った。「変なの」
わずかでも陽が差したなら、君に虹を見せてあげたい。
きっと、世界で一番きれいな景色になる。

8/2/2023, 5:04:15 AM