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幼い頃に祖父母に連れられたよくわからない観光地の庭園でおそらく彼女さんである人と一緒に来ていたお兄さんに私は目を奪われた。

今思えばその頃の私は単純で年上の人にただ憧れを抱いていたのだと思う。その落ち着いた雰囲気に一目惚れした。

目の前に広がる石や樹木や池といった自然にまったく興味を持てなかったがまるで興味のあるフリをしてあまり目をお兄さんの方へ向けないように努力した。

乗る気じゃない祖父母に提案されたエサやりも喜んでやる。何かして気を散らさないと緊張してしまうからだ。渡された100円で買ったエサを手に池の前に立った。

池にエサを放り投げる直前。つい目を別の方向へ向けてしまっていた。そこにはお兄さんが彼女さんの手を取って池からを去ろうとする姿があった。

幸せそうな背中が見えていく。私は心がここにない状態でエサを放り投げていた。気が付くと祖父母のほら前を見ないさいと言う声が聞こえた。

目を前へと向けると口を大きく開けて生々しく餌に群がる生き物が大量にいる光景が入ってきた。その内の一匹が飛び跳ねて至近距離でグロテスクな目が私の目と合う。

「ゔぇ。」

私の知らない私の声が大きく出た。その直後にふふふという声が後ろからして振り返るとお兄さん達がこっちを見て笑い合っている。

忘れられない恥じらいを覚えたのはそれが初めてだった。
強烈な魚顔のせいで憧れの人の顔は今も思い出せない。

春の終わりの頃、それが私の初鯉の日だった。

5/8/2024, 6:02:11 AM