回顧録

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「涙って血液から出来とるんやって。っちゅーことは吸血鬼も血の代わりに涙でもええんちゃうん?」
そんな突飛な僕の疑問に幼馴染は即答した。
「アカン、コスパが悪い」
「コスパ……?」
思ったのと違う回答だ。てっきりヘモグロビンの違いについて言われると思っていた。
にしても、コスパって……まるで消費者みたいだ。
「血は傷つけたらすぐ出るやん、ここ切ったらようけ出るみたいな場所もある。けど、涙ってないやん。人によってツボ違うし、号泣しても量たかが知れてるし。タイパも悪いな」
「タイパ……、でも涙って感情によって味ちゃういうし、時間をかけた方が美味しいのかもしれへんで?」
「まぁ、そりゃ欠伸とかで出る生理的な涙より感情による涙の方が美味いけど」
「さっきから当事者みたいな発言やな?」
僕の指摘に彼が鋭い犬歯を覗かせて薄く笑った。まるで牙のような。あれ、牙?
「あれ?知らんかった?てっきり分かってるからそんな話するんやと思ってたわ」
「へ……?」
「お前ドジやからすぐ指とか切りよるし、なんもないとこでコケるからなぁ……困らんかったわ」
「なっ、なんで……近寄って、…ひッ!」
ジワジワとにじり寄ってくる彼が怖く感じて、後ろに下がると壁にぶつかった。もう逃げ場がない。
「怖がりやし、あぁほらもう潤んでもうてるやん。目ェ擦ったらあかんよ、勿体ない」
じわりと滲んだ雫を拭おうとしたら手首を掴まれた。痛い。
本当に目の前の彼は僕の幼馴染なんだろうか。
「もうつまみ食いみたいなことせんでええんよな?……怖がらんとってや、美味しく頂くだけやから」
そういって彼は僕の眦にキッスをした。

『雫』



作者の自我コーナー
いつものパロ。R12くらいです。
とあるボカロ曲から思いついた話。
吸血鬼をできるだけ現実的に書きたかった。

4/22/2024, 9:14:39 AM