写真集を集めるのが好きだと言った彼は、今日も本屋に行く。
何時間も入り浸って、吟味に吟味を重ねて買った新しい写真集を、家に帰ってからもずっと眺めている。
棚に並ぶ写真集に、人をメインにしたものは無い。
ビルの立ち並ぶ大都市、一面の花畑、大海原にダイブする鯨、コンベアに乗せられている大量の金型·····。
世界中の、あらゆる場所の景色を集めた大量の本に囲まれる彼は、だが旅行は好きでは無いという。
「見に行けばいいじゃん」
教会のステンドグラスが載ったページをゆっくり捲りながらそう言うと、彼は行かないよとにべもなく答えた。
ノイズがキツいのだと言う。
音、声、匂い。
彼にはそれらがノイズとなって襲ってくるらしい。
場違いな音が一つ入ってくるだけで、不安感と不快感に押し潰されそうになるそうだ。
分からないでもない。
花の風景を楽しんでいて、不意にジャンクフードの匂いがしたらそちらに気を取られてしまうのは僕にも経験がある。
彼はだから、旅には行かないと言う。
全身のセンサーがきっと僕より鋭敏なのだろう。彼がそれでいいと言うなら、僕にはこれ以上言うことは無い。
この部屋から一歩も出ない彼はそれでもきっと、誰より世界の風景を知っている。
END
「風景」
4/13/2025, 12:08:09 AM