LaLaLa Goodbye
この道をまっすぐ進めば、あんたのいた場所へ戻れる。このまま行け。
確か仕事帰りに電車に乗って、ウトウトしちまって、あ、寝過ごしたって思って飛び起きた。
そしたら、誰も電車に乗っていなくて、慌てて次の駅で電車を降りた。
暗闇の中に佇む小さな駅だった。
やはり寝過ごして、いつも降り駅を越してしまったらしい。仕方がない。
反対側の電車に乗ろう。
いくら待っても電車が来ない。
だいたい今は何時だ?終電も過ぎた時間だろうか。
駅のホームでいくら待っていても埒が明かない。タクシーで帰るか。
駅を出ることにする。
駅前ならタクシー1台くらい停まっているだろう。
そう思ったが、駅前はなーにもなかった。
暗い夜道が続くだけ。
どうするか。だいぶ寝過ごして遠くまできてしまったらしい。
とりあえず、夜道を歩くことにする。
スマホで明かりを取り歩き出す。スマホの位置情報も反応なしだ。
どんだけ田舎なのか。帰れるのか心配になってくる。
どれくらい歩いただろうか。30分、1時間
分からないが、家の明かりらしきものが見えてきた。
良かった。タクシー呼んでもらえるかな。
そんなことを考えながら、その明かりが漏れる大きな茅葺き屋根の家のドアに手をかけようとした時、後ろから男に声をかけられた。
「おい!あんた、どこから来たんだ」
振り向くと軽トラの窓を開けて、若い男が声をかけてきた。
「え?あー。〇〇市です。電車で寝過ごしてしまって。はは」
男は驚いた顔を後に、「そうか」と言い、
途中まで車で送ってくれると言った。
「ありがとうございます。どうしょうかと困っていたんです。助かります」
小さな集落らしき場所のはずれまで車で送ってもらった。車を降りと男が道を指さす。
「この道をまっすぐ進めば、あんたのいた場所へ戻れる。このまま行け。ただし、途中で何が聞こえても無視しろ。振り向くな。いいな。さあ、行け。goodbyeだ」
「え?はい。ありがとうござました」
またスマホ片手に歩き出す。
なんだよ。もう少し大きな道とか、駅とか、タクシー捕まるとこまで乗せてくれても良かったのに。ヒッチハイクよりひどいだろ。
あの家でタクシー呼んでもらえば良かったよな。
疲れて、愚痴が止まらない。
少し歩くと何か聞こえてくる
LaLaLa〜。
ん?なんだ。歌声?
LaLaLa〜。
やっぱり歌声だ。きれいな声だな。どっから聞こえてくるんだ。辺りをキョロキョロしようといた時、頭の中であの若い男の声が聞こえた。
「見るな!」
ひっ!
驚いて走れ出す。
なんで頭の中で聞こえるんたよ。
怖ぇー。
走りだすと、きれいな歌声もあとを付いてくるように追いかけくる。
なんなんだよ?
ウソだろ。
きれいな歌声を打ち消すように頭の中の声も響き続けた。正直、怖すぎて辺りを見ている余裕はなかった。
どれくらい走った分からないが、ガードレールの向こうに町の明かりが見える。
は?
ここどこの山だよ。
山の中にいたことを確認するために後ろを振り返った。
その時、鎌を振り上げたあの若い男が飛びかかってきた。
え?なんで?
次に気がついた時には、町の病院のベットの上だった。
生きていた。
いや、夢か?
でも頭の傷は大きく何か刃物で切られものだと警察が言っていた。
犯人を探しているらしいが、きっと見つからないと思う。
だってアイツ人間ではないからなぁ。
アイツの忠告聞かず振り返ったから怒ったのかな。
アイツもあの村も本当に存在するのかは分からない。でも、アイツは分かれ際にgoodbyeって言った。「さよなら」だけど、「神のご加護がありますように」って意味もあるらしい。逃がしてくれるつもりだったはずだ。
やっぱり間違えたのは、こちら側なのか。
あちらとこちらの境界線を勝手に越え行ってしまったのに、助けてくれようとしてくれたのに、しくじったのは自分だ。
あの茅葺きの家のドアを開けていたら。
あのきれいな声の主を探していたら。
自分はどうなっていただろう。
痛かったけど、感謝しかない。
おい。鎌鼬よ。
逃がすなら、優しくしてやらんか。
だって、俺は振り向くなって言ったのによ。振り向きやがってよ。人間なんて自分勝手でヘドがでるぜ。
まあ。人間もいろいろさ。
ねぇ。父さんもそう思いませんか。
10/13/2025, 12:10:20 PM