「やぶと花畑1」
この苗字のおかげで、だいぶ仕事の手を抜いていられる。
はなはた、というのだけど、みんな私をはなばたけちゃん、と呼ぶ。花畑ちゃん、お茶出してくれない?花畑ちゃん、コピーお願い。etc…etc
はあいと笑って言われた通りしていれば、お局さまにも睨まれないし、みんなに可愛がってもらえる。派遣ちゃんと呼ばれ、無理目の量の仕事振られてこき使われるよりはずっといい。
お給料に見合わない仕事はしない。これ、鉄則。
そんなあたしにも苦手な上司はいて。
薮さんと言う30前半の人。キッチリ仕事できて、部下には公平。厳しいけれど、いざという時は責任取ってくれる。独身でかなりモテる。
薮さんはあたしには当たりがキツイのだ。みんな、てきとうな仕事しか頼まないのに。割と大事なプレゼン資料の作成とかを振ってくる。
なんで何だろう。気が抜けない。
「はなはた、このデータパワポに落としてくれ、明日までな」
「あ、明日、ですか」
「薮さん、ちょっと無理目じゃないですか、はなばたけちゃんですよ?」
「出来るよ、この子。それにはなばたけじゃなくて、はなはた、な」
取りなしてくれた山田さんは、あ、という顔をしてごめんなさいと謝った。
いえ、それはいいんですけど……。何で?
何でバレてる? あたしのスキル。
薮さんは、メガネの奥からあたしを見てふっと笑った。
「俺はやぶだけど、人を見る目は節穴じゃないよ。ーーはなはたは、出来る」
そう断言して、デスクに向き直った。
あたしはむむ、と言葉に詰まる。
ドキドキしていた。不覚にも。
この上司、いや、この男……あなどれない。なんか! やぶのくせにやばいかも!
#花畑
9/17/2024, 11:01:42 AM