こちらは前々作、前作と繋がる三部作です。
終始暗い内容が続きますので、ご注意ください。
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世界に1つだけのものは大切にしないといけないと思う。
俺が幼稚園児の頃描いた絵とか手紙とか、恥ずかしいから捨ててって言ってもいつまでもとっておいてる親とか見てると余計そう思う。
まぁ最悪絵は今でも描けるし、正直無くなっても誰も困らないし、取り返しのつかないものではない。
なんていうか、そういうのって命と比べたら圧倒的に無価値で薄っぺらいと思う。
俺は嫌がらせをされるのは普通に嫌だし怒るけど、誰も死ななければそれでいいと思っていた。座右の銘なんて“死ぬこと以外はかすり傷”だし、部活やらなんやらで色々骨折したり熱中症になったりとか色々あったけど別にそんなのどうでもよかった。生きてさえいれば良いと思っていた。生や死に何か意義があるとか考えたことなかった。
爺ちゃんとか婆ちゃんとかはもう寿命で亡くなったし、俺も葬式に参列したりして、色々俺の中でも思い出とかがあって、悲しいとかも思った。でもしょうがないって割り切った。死んだ人間は戻らないし、そもそも寿命はしょうがないし、悔いとかはなかった。今までありがとうって言ってお墓に花束を供えて手を合わせて、ちょっとすれば俺はいつも通りバカなことで友達と笑い合ってた。俺だって年食ったらいつか死ぬんだし、考えてもしょうがない。
昨日の10時のことが蘇る。
駅の改札で待ち合わせの約束だった。俺は気合い入れて15分前から待ってた。前日は9時には寝てたし、いつもしない癖に無駄に髪とか綺麗にしたし、姉にデートかってしつこく聞かれるぐらいには服も頑張って選んだ。俺が友達だって言うといつも自信なさそうにするから、どうにかして友達だと思ってもらいたかった。
それなのに何分待ってもあいつは来なかった。LINEとか電話とかしまくったけど一向に反応が無かった。いつも既読は速いほうだから、まさか今日に限ってってことはないと思ったし、寝てるんだとしたら起こしてやろうと躍起になって、俺は根気強く電話しまくった。
30分ぐらい経っても繋がらなくて、しょうがないから駅前のドーナツ屋のイートインで時間を潰すことにして、あいつが焦ってLINEしてくるのを待っていた。
11時をすぎて、俺はもしかしたら騙されたんじゃないかと思った。まさかあいつは本当はめちゃくちゃ腹黒で、俺がまだかまだかと待っているのを楽しんでいるのか。なんかもう、そういうことにしようと思った。せっかくこんな気合い入れたのにすぐ帰ってきたら姉に笑われると思ったから、期間限定を追加でまた頼んだ。
ドーナツ屋を出て、古着でも見ようかと歩き出そうとした瞬間、軽快な着信音が鳴った。あいつからだった。やっぱり寝てたのかな、ちょっと怒ってやろうとか思って電話に出たら、酷く焦った女性の声だった。多分母親だ。
変な気分だった。聞きたくなかったけど、手が動かなかった。声も涙も出なかった。ただただ、向こうで女の人が拙く話すのを聞いていた。
電話が切れたことに気付けなくて路上で長らく放心状態だった俺を心配したらしい。ドーナツ屋の店員が店の外に出てきて声をかけてきた。ここで泣きつきでもしたらなんか変わってたかもしれないけど、俺は大丈夫ですと繰り返した。うまく笑えていたかは知らない。
そのあと色々あって、あいつの父親と会った。母親はもう塞ぎ込んでしまったようで、表に出てこなかった。それでも、父親のほうもだいぶ参っているようだった。無理につくったであろう笑みで注いだ茶がコップのふちから溢れ出していくので、俺は流石に休んでくれと頼んだ。もう疲れてるんだ。俺だって疲れてるけど、きっと親の立ち場になったらもっと疲れるだろうな。なんでこんな気持ちにならないといけないんだろう。俺が悪いんだろうか。いや、きっとそうだ。俺が悪い。俺のことが嫌いだったんだ。悪かったな、余計なお世話ばかりして。本当に、本当に、俺のせいなら、俺のこと殺してくれればよかったのに。
帰る間際に父親に引き留められた。あいつが俺に書いた手紙らしい。読まなくても良いから持っていてくれと言われて、断る気力もなかったし受け取った。
手紙は好きじゃなかった。手書きの文字とかは響かない。きちんと面と向かって声で伝えてくれなければ、何も伝えていないのと同じだと思う。それでも読まないわけにはいかないから、俺は自分の部屋でそれを開封した。したって言ってもただ真っ白な紙3枚を、中身が見えないように2つ折りしただけだったけれど。
綺麗な字だった。いつもプリントに書いてる名前は丁寧だけど、これは崩れていた。それでも綺麗だった。
5行ほど読んで、3行また読み直すみたいな読み方をして、何十分もかけてそれを読んだ。こんなに読み終わりたくない文章は初めてだった。
たかだか何週間か話したぐらいの奴にこんなに感情を乱されるなんて笑ってしまう。俺は人生をこんな風に終わりたくなかった。でもここでやらなければ一生後悔する。
死ぬこと以外はかすり傷。でも俺は、かすり傷では自分を許せなかった。
本当に再会できるかは分からないけど、せめてあいつの誕生日が来る前には会いたい。年をとらない俺達なら、きっと誕生日を特別な日にできる気がする。
4/3/2026, 3:07:57 PM