あめ。

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題名『bye bye…』



「おはよう、遥花」


さっきのニュースで、桜が満開になったって言ってたよ。
今日は絶好の花見日和だよ。
次の休みに遥花の好きなスナック菓子でも持って行こうか。
ついでにコンビニでアイスコーヒーを買って行こう。
ガムシロップを二杯にミルクを一杯。
遥花のアイスコーヒーの黄金ブレンド、美味しいよね。


「食パン焼く?焼かない?」


あぁ、ごめん訊くまでもなかったよね。
バターだけ塗って焼いて、後からはちみつがお気に入りだよね。
それとも今日はジャムの気分?
お気に入りのブルーベリーのジャムも仕入れてるよ。


「コーヒー?紅茶?」


これも訊くまでもなかったか。
いつも通りホットコーヒー淹れておくね。
このペアのマグカップ、いつ見ても可愛いよね。
俺が緑にクマのマーク、遥花が青にペンギンのマーク。
青の方にはガムシロップ二杯入れておくよ。
…あぁそうだね、ミルクも忘れないように入れておく。


「はい、遥花のための特製プレート、かんせーい」


バター先塗りはちみつ後がけのトーストに、
とろっと半熟の目玉焼き。
添え野菜はカラフルなプチトマトと塩ゆでブロッコリー、
デザートには昨日買った苺をつけてやった。
飲み物は遥花ブレンドのホットコーヒー。


「桜、こっからでも見えるかな?」


ベランダに出て辺りを見回してみる。
電車が走る川沿いに、ビルで隠れてはいるが桜並木が見えた。


「んー、あんまり綺麗には見えないか」


残念だな、遥花にも見てほしかったんだけど。
とりあえず、カーテンは開けて行くね。
遥花、桜大好きでしょ。


「はい、ちゃんと食べなよ」


写真立ての中で笑う遥花の前に、特製プレートを置いておく。
我ながら、美味しくできたと思うんだ。


「じゃあ、そろそろ電車乗り遅れちゃうから」

「行ってきます、仕事頑張ってくるね」

「…ばいばい」


ほんとは全部わかってるけど、
もう日課のようになってしまったこの会話をやめられずにいる。
やっぱりまだ認めたくないのだ。
遥花がもう二度と、おかえりを言ってくれないなんて。

いつものように、研究し尽くした遥花好みの朝食を作って、
遥花がおいしい、って笑うのを見たいんだ。

遥花がちゃんと食べないせいで、
さっき作ったこの朝食は俺の夕食になるんだけどさ。
冷め切ったコーヒーにはガムシロップが溜まっちゃうから、
混ぜなきゃとても飲めなくて、なんだか虚しくなる。

ねぇ遥花。
またおかえりって言ってよ。
この家は一人だと広すぎて、寂しいんだ。



「…いってきます、遥花」


もう一度、遥花にいってきますをした。
いってらっしゃい、って聞こえた気がしたような。

3/22/2025, 11:14:42 AM