私には秘密があった。
私の瞳には他人の寿命が見えていた。
「ふーん」
これまで誰にも言ってこなかった秘密をはじめて他人に暴露したというのに、彼は心底どうでも良さそうで、目線すら合わせようとしない。他人に興味なさそうな彼の反応は想定内だと言うのに、拍子抜けするほどどうでも良さそうな彼の態度にちりっと喉の奥が焼けついた。彼がそういう人だとわかっていて告げたと言うのに、傷ついている私自身に驚いてしまう。どうして、私は彼に自身の秘密を打ち明けてしまったのだろうか。
「······で、俺の寿命は?」
ようやく顔を上げた彼は不敵な笑みを浮かべていた。
いつもヘッドフォンを首から下げ、物憂げに窓の景色を見ている様は絵になるように美しい彼の姿に、隠れファンが多い。口を開けば皮肉の嵐だから、残念なイケメンという立ち位置なのが惜しい。
「見えない」
「はっ、だろうね」
他の人なら頭上で浮かぶ寿命が彼だけはモザイクがかかったみたいに数字が定まらない。
「貴方は人間じゃないの?」
「失礼だな。一応、人間だよ」
彼とのやり取りはそれっきりで終わってしまった。
数年後、社会の仲間入りを果たし、仕事に忙殺されていた私は彼を改札の外で見かけた。銀髪なのか真っ白な髪の毛の女を連れていた。世界なんてどうでもよいと、破壊願望にまみれたあの日の彼とは思えぬほど愉快そうに話しかけていると言うのに、隣にいる女は昔の彼を想起させるほどに無表情だ。年の離れた兄妹と思いたいのに、その手は恋人のように甘ったるい繋ぎ方だ。
あんな女の何が良いんだろう。顔はかわいい方だけれど、彼には到底釣り合うとは思えない。
彼と視線が、合う。
睨み付けるようなその視線は心の内を読まれたかのような気味悪さがあった。そのまま、私に背を向け、彼女らしき女と人波に消えていく彼にちりっと喉が焼けた。
ああ、そうか。
私は彼が好きだったのか。
好きだから、私を見て欲しくて秘密を打ち明けたのだ。
なんて、子どもみたいな真似をしたのだろう。
もう、終わってしまって、今更だけど。
11/20/2025, 2:08:52 PM