なぎさ

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神体祭り。それは、年に一度、世界中の神々が人間に化けて参加するお祭りのことである。

私───美と礼儀の神である美礼も、この神体祭りを楽しみにしていた。私の大親友である灯とは、普段なかなか会うことができず、このお祭りでしかいつも遊べないからだ。
それに、今年はまた新しい神が誕生したと聞いている。どんな神なのか興味が湧いているし、あわよくば仲良くなれたらいいなとも思っているのだ。
「でもまずは、浴衣の調達っ」
日本という国ではお祭りに浴衣というものを着ると日本の神である日狐さんに聞いて、今年はそれを着ようと思っているのだ。見た限りではなんとも優雅な服装で、この私にはとても似合いそうだったというのもある。
「えーっと、日狐さんが教えてくれたお店の電話番号はっと…」
カバンからスマホを取り出し、人間が営んでいるというそのお店へ電話をかけた。

プルルルルッ!
店の中にある電話が鳴り、私は急いで受話器を取った。
「はい、こちら着物店〜神様に添えて〜です」
我ながらダサい名前だなと思いながら名乗ると、カタコトの日本語が聞こえてきた。
『あ、あのォ、ワタシ用のyukataを作るのお願いできますかァ?』
この様子は恐らく外国の神様だろう。浴衣の発音だけ妙にアメリカンチックでおかしくなってくる。
「あなた専用の浴衣ということですね。すみませんが、お名前と電話番号を教えてくれませんか?」
電話の向こうの神様にも聞き取れるようにゆっくりと話す。神様というと何でもできるイメージだが、人間と同じように得意不得意はあるのだ。ただ、人間から見ると全てが平均以上なだけで。
『あ、名前は美礼と言いますゥ。これはあの日本語の名前?なんですけどォ。一応FranceのGodですゥ。えと、電話番号はァ』
教えてくれた電話番号をメモし、名前も添える。フランスの美礼様は、どうやら美と礼儀の神様らしい。少しの会話でなんとなく分かってきた。
「では、サイズなどを測りたいので、なるべく早く日本に来てもらうことはできますか? あ、化けるときのお姿で来てもらえると幸いです」
そう言うと、少しの沈黙のあと声が聞こえてきた。
『全然だいじょーぶですゥ。明日はちょとムツカシイのでェ、明後日でもいいですかァ?』
すぐに店のカレンダーを確認する。明後日は誰の予約も入っていなかった。
「かしこまりました、ご予約の時間はどうなさいますか?」
『ちょと時間がかかりそうなのでェ…半日でもいいですかァ? できれば午後がいいですけどォ』
半日の午後…つまり、12時からお店が閉まる20時までということだろうか。それとも、12時から0時ということだろうか。
「あの、閉店時間が夜の8時になるのですが、お昼からそこまでということでよろしいですか?」
そう聞くと、考えるような沈黙の後、返事がきた。
『はい、そこまででだいじょーぶですゥ。それでお願いできますかァ?』
「かしこまりました。それでは、12時から20時までのご予約でよろしいですね。料金なのですが、神様なので、このお店が長く続く祝福で結構です」
神様はお金なるものを持っていない。だから、このお店ではお店が続くよう祝福してもらうことでまかなっているのだ。
「分かりましたァ。また明後日にお願いしますゥ。では失礼しますねェ」
それで電話は切れ、私はパソコンを立ち上げて美礼様について調べた。

~明後日~
美礼様がご来店されてから、私はテキパキ働いた。まず採寸をし、調べることで分かった美礼様の好きな色───黒の生地から選んでもらい、帯や下駄なども選んでもらう。
それから受け取り日に間に合うように毎日作り、後日再度ご来店してくださった美礼様にお渡しした。
「まァ、すごく綺麗ね、これ。どもありがとうですゥ」
満面の笑みで受け取ってくれた美礼様を見送り、また私は他の神様の浴衣をお作りした。

「あら、美礼さん、すごく綺麗ね、その服」
今日は朝から色んな人に褒めて貰えた。それもこれも全部この浴衣のおかげだ。
シンプルだけど美しさも引き出すこの浴衣は本当に素晴らしいと思う。でも、私は白が好きなのに、なぜ黒なのだろう。このお店は好みを生かすと聞いたはずなのに。
そういえば、同じお店を利用した黒好きの美麗さんは白い浴衣だったなぁ。

───「お祭り」

7/29/2023, 7:42:33 AM